漢字・異の由来:霊鬼の象形である。この漢字は甲骨文字の時代から今日まで、人々の漠然とした畏れを現してきた。
このページタイトルにある「霊鬼の象形」という言葉は、抽象的な言葉であるが、ある意味現状を反映した具体的なものでもある。
これほど科学が発達した今日に至っても、この世にはアミニズムは蔓延っているといってもいい。それは今日ではある種の科学的な装いを呈しながら、底辺では古いアミニズムなものをもって、世界中の人々に畏れ、恐怖を植え続けているようにも思われる。
漢字・異は甲骨文字の時代に生まれ、金文、象形の時代に至ってもその形を変えることなく、生き続けてきた。恐らくこの漢字が示すことは、時代が変わってもこれからも人々の意識に働き続けるであろう。ひょっとしたら、このアミニズム的なものがなくなったら、人間は人間でなくなるのかもしれない。
導入
前書き
目次
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漢字「異」の今
漢字「異」の楷書で、常用漢字である。 「異」は異変、異形、異常などの熟語を作り、いずれもどこか収まりの悪い掴みどころのない薄気味の悪さを語感に持っている。 | |
異・楷書 |
漢字「異」の解体新書
甲骨文字も金文も基本的には変化は見られない。 鬼頭の形は、あるいは仮面であったと思われる。 漢字源ではこの部分は「ざる」ではないかと解釈しているが、ざるであるという必然性があまり考えられない。 | |||
異・甲骨文字 |
異・金文 |
「異」の漢字データ
- 音読み イ
- 訓読み ことなる
意味
- 同じでない
- 普通でない、変わっている
- めずらしい(例:奇異)、並でない
- 他の、別の
同じ部首を持つ漢字 異、畏、留、畾
漢字「異」を持つ熟語 異、異人、異形、異音
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漢字「異」成立ちと由来
引用:「汉字密码」(P834、唐汉著,学林出版社)「異」の民俗学的解釈
异は異の簡体字。甲骨文字の中の「異」の字はまるで一人の人が手を上にあげ鬼の面を頭に掲げている様子である。小篆の字は金文が分化し鬼の頭と、人の手と人の体の三つに分断した形だ。楷書は小篆を引き継ぎそのため象形から遠く離れてしまっている。
異の字の取象は上古時代の選民の祭祀を挙行するところからきている。踊るとき化粧をしマスクをつけ、死んだあるいは災難に合った親戚を追悼する儀式である。
漢字「異」の字統の解釈
鬼頭のものが、その両手を掲げている形。
異は分与を原義とするものでなく、霊鬼の象形である。ト辞に「王に異あるか」とトするのは、災異の有無を問うものである。鬼頭の畏懼すべき神状を示したもので、それより異常・異変・奇異の義を生ずる。
漢字「異」の漢字源の解釈
会意文字。大きなざるまたは「頭+両手を出した体」で、一本の手の他、もう一本の別の手を添えてものを持つさま。同一ではなく、別にもう一つとの意。
漢字「異」の変遷の史観
文字学上の解釈
甲骨文字、金文の間には大きな変更は見られない。これは何を意味するか。
これはこの漢字の環境で大きな変化が見られなかったということでは無いだろうか。白川博士や唐漢氏が述べるように、「上古時代の選民の祭祀を挙行するところからきている。踊るとき化粧をしマスクをつけ、死んだあるいは災難に合った親戚を追悼する儀式である。霊鬼の象形である。」古代に上古民が数千年もの長きにわたり、霊界を畏れ、祭祀を執り行ってきたということだろう。
まとめ
人間は異なるものにある種の畏れを抱くものである。それは数千年の年月を経ても、形を変えながらも、生き続けてきている。これほど科学が発達した世界においても、無数の宗教が存在し、陰謀説や得体のしれない噂、デマなどを通して我々に畏れを植え続ける。漢字「異」が、甲骨文字、金文、小篆に至ってもほとんどその形を変えることなく、生き続けてきたことをここに見た。恐らくこれからも、生き続けるであろう。これはいわば人間の業というべきものかもしれない。
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3 件のコメント:
異の漢字成り立ちから、現在まで、形も意味も変わらないとは、驚きです。それほど、人にとって、異なるものへの恐怖、畏怖は根源的なものであるということでしょうか?
日本にも驚きべき原始宗教や民間呪術が残存しています。中国の民間宗教、呪術にまで関心が伸びていきますね。面白いです。ありがとうございます。「残菊」
異なるものへの人が持つ感覚は人が生きていくための正常なものかも知れません。それにしても古代人が感覚を絵ではなく字という形にして表現したことはある種の感動を覚えます
異の漢字の成り立ちロマンがあって好きです。
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