2022年2月8日火曜日

漢字「徳」の生成の謎、その成り立ちと由来はいかに


漢字「徳」の成り立ちと由来:「徳」という概念は古く甲骨文字にも表れている。
漢字「徳」の生成の謎、その成り立ちと由来はいかに。「徳」という概念は古く甲骨文字にも表れている。このような高度な概念が、甲骨文字に既に現れていることは驚きである。単なる後付けの結果なのか。殷周の古代の呪術が支配する時代において、「徳」のような概念が生まれる余地はあったのだろうか。

 徳は字統の解釈にせよ唐漢氏の解釈のいずれにせよ、自分の考えを客観視する姿が字に表されている。殷周の時代と言えばエジプト文明の新王国時代に当たり、この時代に人間の内面にまで思考が及んでいたとは考えにくいのだ。だが目の前に出された歴史的証拠からはその可能性が否定できない。


漢字「徳」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「彳」で右辺は省と心に従う
徳・楷書


  
徳・甲骨文字
道路を指す符号と眼が前方を直視している符号から成る
徳・金文
「直」の下に心の象形を加えて、まっすぐ見て幹線道路を歩く
徳・小篆
金文を継承している


    


「徳」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ソク
  • 訓読み   つなぐ

意味
     
  • 人の持つ性格で、良い性格を指す、善良な人間性   人徳
  •  
  • 教え
  •  
  • 利益、もうけ    

漢字「徳」を持つ熟語    道徳、悪徳、陰徳、人徳、功徳

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「徳」は会意文字です。甲骨文の徳の字は、道路を指す符号と眼が前方を直視している符号から成る。両形の会意で目は斜視でhなく両脚は道路から離れず目標に直達する。金文の徳は「直」の下に心の象形を加えて、まっすぐ見て幹線道路を歩くという原則に従って「歩く」だけでなく、このように「考える」ことも必要だと強調した。小篆は金文を継承し、楷書では「徳」と書く。

 



漢字「引」の漢字源の解釈
 会意兼形声。その原字は「悳」(トク)と書き、「心+音符・直」の会意兼形声文字で、もと本性のまま素直な心の意。徳は後それに彳印を加えて、、素直な本性に基づく行いを示したもの


漢字「徳」の字統の解釈
 彳(テキ)と省と心に従う。篆文の字形は悳(トク)に従い、悳の声。説文に升るなりとあるが、字の本義ではない。徳の初形は省と極めて近く、省から展開している字と考える。省は目の上に呪飾をつけて、省道即ち除道を行うことを意味する字で、徳とはその省道によって示された呪的な威力をいう。


まとめ
 「徳」も儒教の根本思想。しかし徳はある意味では儒教思想の器のようなもの。器の中身は、「仁義礼智信」としている。



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2022年2月6日日曜日

漢字 「残」 の成立ちと由来:残ったものを有用物と見るか、カスと見るかで、漢字の意味も変わってきます


漢字「残」の成立ちと由来:「歹」(動きの取れない脚+「戔」二つの戈(ほこ)からなる。激しい戦闘で傷つき動きの取れない状態を示す
 漢字「残」の成立ちと由来:「歹」(動きの取れない脚)+「戔」二つの戈(ほこ)からなる。激しい戦闘で傷つき動きの取れない状態を表しています。

 2022年2月5日から北京でオリンピックが開かれる。中国語で奥运会という。また3月4日金曜日~3月13日日曜日の10日間パラリンピックが開かれる。このことを中国語で『残疾人奥运会』という。
 パラリンピックの中国語訳はどうもしっくりこない。日本でいうと廃疾者であり、完全な差別用語のような気がする。なぜオリンピック委員会は異議を唱えないのか不思議た。あれほど人権人権と騒ぎ立てるにもかかわらず、このような呼び名をそのままにしておくとは。
 もちろん中国語を日本語で解釈することはできませんが、少なくとも、中国語を中国人自身がいかに解釈しているかを深く話し合いすべきだと考えます。


漢字「残」の楷書で、常用漢字です。
 左の部分は「歹」、右は「戔」で両形の会意で激しい戦闘で傷を負って動けなくなった状態を示しているとされます。
 このように元々は「廃疾」のように使われていたのかも知れませんが、後世の使われ方は、いわゆる「残る・残留・残滓」という意味に使われているようです。
残・楷書


  
残・甲骨文字
上と下の2つの「戈」の形をしており、兵の刃で近接して互いに殺戮の戦いの意味を示しています。
残・金文
甲骨文字を引き継いでいますが、戈がより明示的になっています
残・小篆
左の部分は足を緊縛され、動きが取れないことを示しています


     「残」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ザン
  • 訓読み   のこ(る)

意味
     
  • そこなう ・・「殺す」(例:残骸)
    傷つける、切る・切断
      壊す  破る  
  • 傷・痛み
  •  
  • 酷い、むごい

同じ部首を持つ漢字     死体、
漢字「残」を持つ熟語    残虐、残酷、残念、残渣、残像、




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「戔」は「戋」の繁体字です。 「戔」は「残」の本字でもあります。甲骨文字の「最初の」キャラクターは、上と下の2つの「戈」の形をしており、兵の刃で近接して互いに殺戮の戦いの意味を示しています。

 



漢字「残」の漢字源の解釈
 会意兼形声:「戈+戈」の会意文字で、刃物で切って小さくすること。残は「歹(ほね)+音符」で小さく切りとって、小さくなった残りの骨片


漢字「残」の字統の解釈
 旧字は残につくり、戔声。戔に浅小軽薄のものの義があり、残とは残骨・残片の意である。「説文」に賊と人を害する残賊の義とする。


まとめ
 会意文字であるようだが、甲骨文字にせよ、金文にせよ、まるで象形文字であるかのように生き生きとした人々の姿が描写されている。文字の形に簡略化し、無駄を省いたデッサンとなっており、実に素晴らしい記号化、抽象化がなされていると思う。




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