2021年5月30日日曜日

漢字・降の成り立ちから分かること:古人は神など人間を超越した事象を表現した・・降臨。


漢字・降の成り立ちから何が分かる:単に上下を表しているのではなく、本来は天や神など人間を超越した事象を表現しようとしたのではと思われる
 現代では「降」は昇降のように昇と共に使われることが多いように見え受けられる。しかし漢字の成り立ちの観点でいえば降に対応する漢字でいえば、登において他はないと思っている。それは甲骨文字などの古文字にはっきりと示されている。

 しかし、文化は絶えず変化し発展する。いつまでも甲骨文字や古文字ではあるまい。しかし人間の認識を変える「何時か」があったはずだ。漢字考古学の使命は、その謎を解明することだと思う。


漢字「降」の楷書で、常用漢字です。右には「登」の金文を参考のために表示しておきました。現代の漢字では、一見何の関係もないような「降」と「登」。古文字の成り立ちを見ると「降」と「登」の文字の構造は非常によく似ているのが分かります。

 降の甲骨文字では、左側に神梯が書かれており、その神梯を降りる(逆向きの足跡が二つ書かれています。これは神梯を降りることを表したものにまぎれもないことと思います。
降・楷書


  
「降」・甲骨文字
左の神梯に二つの逆向きに足跡が付けられている
「降」・金文
甲骨文を引き継いで、少し洗練されたものとなっている。
「降」・小篆
甲骨も金文のいずれの要素も文字らしく形が整えられている


    


「降」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   コウ
  • 訓読み   お(りる)、お(ろす)、ふ(る)

意味
  • おりる、高いところから低いところへ移る ・・自動詞
  • おろす、高いところから低いところへ移す・・・他動詞
  • 主に自然現象で、ふる、上から落ちてくる・・雨や雪、もの がふる。
  • あと ・・・以降

漢字「降」を持つ熟語    降格、降雨、降下、降雪、降服


引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「降」、これは会意文字です。甲骨文の「降」という言葉の左辺は、小さなはしごの素描です。古代のはしごは一本の木材に切り込みを入れ、人々はそれを使って上下に登りました。右側には足が逆さまに書かれています。それははしごに沿って降りることを意味します。金文の「降」という言葉は甲骨を受け継いでいます。社会の発展により、はしごの形が良くなり、シンプルなはしごの形が「阜」に進化し、言葉の意味が一歩に広がりました。 小篆から隷書への変化の後、楷書は「降」と書かれています。 「降」という文字は、下降と落下、つまり「上昇」とは逆に、人や物が高い位置から低い位置に移動することを意味します。

 


漢字「降」の字統の解釈
 会意文字:阜とコウに従う。阜は神の上り下りする神梯の形。コウは歩の倒文で、こうは下るときの足跡。


まとめ
 会意文字であるようだが、甲骨文字にせよ、金文にせよ、まるで象形文字であるかのように生き生きとした人々の姿が描写されている。文字の形に簡略化し、無駄を省いたデッサンとなっており、実に素晴らしい記号化、抽象化がなされていると思う。



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2021年5月29日土曜日

漢字 登の成り立ちから何を読み取るか。神に敬虔な祈りをささげる古代人の生活が見えてくる


漢字の成り立ちから何を読み取るか。「登」の反対語は「降」で、両者とも神聖な祭祀に用いられた特別な言葉ではなかったろうか
「のぼる」ことを表す漢字は、「登」、「上」、「昇」などありますが、どの漢字も上に上がるという意味を持ってるのは確かですが、この使い分けはどうすればいいのでしょう。答えは古代文字に遡ってみると意外に確かなことが分かるかも知れません。

漢字「登」の楷書で、常用漢字です。原義は、両足を使って、高いところに上がることです。

 金文にはいくつかの書き方がありますが、右に示したものは、「登」の一つの概念を極めて明瞭に表したものだと考えます。この款には、神が上下する梯子・神梯が左に書いてあり、右には高脚の器を両手に捧げた姿が表示されています。祭祀か何かで、お供えを恭しく掲げ進んでいる様子が書かれていると思われます。
登・楷書


  
「登」・甲骨文字
両手でお供えの入った器を掲げながら、静々と進む姿のデッサンである。
「登」・金文
単なる見たままのデッサンから文字として、より洗練されたデザインになっている
「登」・小篆
文字として完成度が高まり、誰もが同じ物象として受け止め、書く際も間違いなく同じに表現できるものになっている


    


「登」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   トウ、ト
  • 訓読み   のぼ(る)

意味
  • あがる、上にあがる ・・(例)登山
  • 部署につく、採用される・・・・登用
  • エントリーする ・・登録・登記 

同じ部首を持つ漢字     登、澄、橙 、 燈、鄧(中国の政治家の名前)
漢字「登」を持つ熟語    登山、登校、登場、登壇、登頂




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「登deng」、これは非常に興味深い会意文字です。 甲骨文字の「登」は、上が両足の形で前進を意味し、下は両手に高脚皿を持ち、汁物などを入れた古代の器の外形を絵で描いたものです。 青銅碑文は甲骨文を継承し、進化の過程で小篆は下の手の形を省略したため、通常の字は「登」と書かれています。

 スープの入った食品容器を両手で持ち、注意しながら足を高く上げて一歩一歩前に進みます。 そのため、甲骨文字では「登」が生贄を捧げる際に尊厳を表すためによく使われます。





漢字「登」の字統の解釈
 癶(はつ)と豆とに従う。癶は両脚のそろうて前に向かう形で、「発」の初文。豆は踏み台の形で、その踏み台に足をそろえて登ることをいう。説文には「車に上る也」とあるが、白川氏は車ではなく、豆の踏み台だと主張する。但し、氏は「豆」の説明で、足の高い食器の形としている。甲骨文字では「豆」の上部に「足」があることから、踏み台としtのかも知れない。


まとめ
 会意文字である。甲骨文字にせよ、金文にせよ、小篆にせよ、まるで象形文字であるかのように生き生きとした姿が描写されている。年代が進むにつれ、文字の形に簡略化し、無駄を省いたデッサンに進化しており、実に素晴らしい記号化、抽象化がなされていると思う。



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2021年5月27日木曜日

漢字の成り立ちの意味するもの:漢字「暑」は漢字「熱」との比較でその違いが際立ってくる



漢字 暑の成り立ちの意味するもの:古くから気候で、寒暑をいうのに暑を使ったようである。
 漢字の成り立ちの意味するもの:漢字「暑」は漢字「熱」との比較でその違いが際立ってくる

 文字は一つの文字を取り出して、それだけを論じても、真実にたどり着くのは難しい。
 その漢字の類語、使われ方、音、歴史的背景などあらゆる面から調べて初めてその文字の本質が見えてくる。これは、漢字の新しいジャンルになるのかも知れない。漢字考古学とで名づけられるだろうか。

 これから日本は、梅雨も明けると本格的な夏に突入する。暑い暑いと連発することになるが、同じ「暑い」でも、「熱い」というアツさがあるが、この区別はご存じだろうか。

 古代人はこれらを実に巧みに使い分けていた。漢字の成り立ちを調べると、その使い分けが見事になされていることに今更ながら感服する。

 ここで違いはあくまで、古代での話であって、現代ではこのような話ではないことは当然である。


漢字「暑」の楷書で、常用漢字です。訓読みでは「あつい」と読みますが、おなじ読みをする漢字には、「熱い」があります。

 この意味の違いは、古代文字を見ると一目瞭然であり、文字から、三千数百年前の人々の考え方にまで迫れるというのは、漢字以外の世界中のどの文字にもないだろう。漢字はすごいの一言に尽きる。

 参考ページ:
熱はトーチを持つとき熱く感じるさまをいう 


 
古代人の考え:暑と熱さは一つのことを言っている。暑さと熱の違いはほかでもなく湿っているか乾燥しているかだ。従って南は暑い、北は 「熱い」となる。其れから言うと日本の夏は「熱い」ということになり、砂漠のあつさは「熱い」ということになる。

「暑」・金文
「日」と「者」の組み合わせの表意文字だ。 「者」という言葉の本来の意味は、もともとは漆が付着したために、湿を帯び中に封じ込めるの意味を含む。
「暑」・楷書
金文を引き継いだ。
  甲骨文字の「熱」という言葉は、まるで人が燃盛るトーチを手に持っているよう見えます。

 「熱」の本来の意味は、「火を持つ、トーチ」です。手持ち型の松明は火であぶり焼けるように感じることをいいます。したがって、「熱い」はあぶり焼けるの意味です。

 この文字は、今盛んにおこなわれている、オリンピックの聖火リレーそのもので、、この字を見ていると、古代中国でもオリンピックが行われていたのではないかと錯覚を覚えるほどです。
「熱」・甲骨
まるで人が燃盛るトーチを手に持っているよう見えます。
「熱」・小篆
小篆の「熱」の言葉は、火と執るの音からなり、会文字と形声文字になっています。
 小篆の「熱」の言葉は、火と執るの音からなり、会文字と形声文字になっています。楷書はこの関係から、「熱」と書かれており、簡略化されて「热」になっています。


    


「暑」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ショ
  • 訓読み   あつ(い)

意味
  • (天候の)暑い  ・・・(例)蒸し暑い、
  • (物の温度が高い)熱い  ・・・例:鉄が熱い、熱く燃える

漢字「暑」を持つ熟語    炎暑、酷暑
漢字「熱」を持つ熟語    加熱、過熱、蓄熱、解熱、高熱、熱中症、熱量




引用:「汉字密码」(P415、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「暑」日と者の声音からなる。 古代人の考え:暑と熱さは一つのこと、「暑の義、主曰く湿、熱の意味、主曰く燥」、暑さと熱の違いはほかでもなく湿っているか乾燥しているかの違いだ。南は暑い、北は 乾いた熱さ。

 「暑」という言葉は、「日」と「者」の組み合わせです。 ここでの「者」はここでは声符でありまた表意文字だ。 「者」という言葉の本来の意味は、もともとは漆が付着したために、湿を帯び中に封じ込めるの意味を含む。 したがって、暑の本来の意味は中にも含める、「じめっとした暑さがへばりつく」の意味も含まれています。

 私たちの感覚でいうと、日本のじめじめとした暑さは「暑い」で表現され、砂漠の熱さは、「熱い」ということでしょうか。


「暑」の字統の解釈
 形声文字:声符は者(シャ)。説文に「熱きなり」とあって暑熱をいう。


まとめ
 個人的には、「熱」の古代字が実に面白い。特に甲骨文字に至ってはまるで漫画である。古代人の巧みな表現力に敬意を表したい



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2021年5月25日火曜日

漢字「臨」の成り立ちから分かること:臨済宗の臨はそもそも何を意味していた



臨と望の成り立ちに見る「臨」の意味するもの
「臨」といえば、何はともあれ臨済宗という禅宗を思い出します。日本でいうと、弘安5年(1282)、ときの執権北条時宗が中国・宋より招いた無学祖元禅師により、円覚寺は開山されました。
 この臨済宗は、中国の禅宗五家の一つで、唐代に開かれた宗派ですが、その『臨済録』という原典のような書物にある、「院、古渡に臨んで往来を運済す」にあるようにそのお寺が古い渡し場に臨んでいたということに依っています。済は渡し場という意味です。渡し場に臨んでいるから「臨済」という簡単な由来なのです。
以上 《2019.07.08 僧堂提唱、「臨済」のいわれ》を参照した
 さて本題の漢字にもどりますが、漢字の臨と望はいずれも訓読みでは「のぞむ」と読む。しかし、これらの漢字の立ち位置を探ってみると、成り立ちからして全く異なる。

 つまり、意味するところは両者とものぞむであるが、一言でいえば、「臨」は神々が「のぞむ」こと、俯瞰・光臨することであり、「望」は庶民の喜怒哀楽にまみれた「のぞむこと・希望」なのだ。つまり、見る視点が全く異なるのだ。

 古代人はこれらを実に巧みな表現力で我々に訴えかけてくる。


漢字「臨」の楷書で、常用漢字です。訓読みでは「のぞむ」と読みますが、おなじ読みをする漢字には、「望む」があります。文字としては、「望」の方が早くできたようです。「臨」という漢字は、俯瞰することであり、希望という意味は持っていない。一方「望」は人々の希望・のぞみです。
 このように全く異なるものを日本語で「のぞむ」ということばを使ったのがそもそも紛らわしかったということになります。
 後世の人間の単なる混同であるのかも知れません。

参考ページ:
漢字の成り立ちの意味するもの:漢字「望」は風情が面白い 


  
「臨」・金文
やはり大きな目で俯瞰している様。「臥」+「品」からなる
「臨」・小篆
品の口が、祝禱を入れる三つの器に変って、より神霊の意が表現されている。
「望」・金文
大きな目をむいて、見ている様。この字にはいくつかの款はあり、それぞれに実に巧みに気持ちを表現している。


    


「臨」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   リン
  • 訓読み   のぞ(む)

意味
  • のぞむ  ・・・見下ろす、上から下を見る
  • 身分の高い者が低い者の所へ行く  ・・・例:親臨
  • 人が自分の所へ来る事の敬語  ・・・例:臨席
  • 直接、その場に立ち会う    ・・・例:臨検
  • ひとが死ぬとき   ・・・例:臨終

漢字「臨」を持つ熟語    臨終、降臨、臨界、臨席




引用:「汉字密码」(P415、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「临」は「臨」の簡体字です。金文の臨の字は一つの大きな眼が地上の3つの小さなものを俯瞰している様子です。小篆は金文を継承して、地上の三つの物が、美観を整えるため3つの「口」に変っています。
 楷書は再び調整したのち「臨」に、現今は簡体字の「临」になりました。

 





漢字「臨」の字統の解釈
 会意文字:臥と品に従う。臥は人が臥して下方を望む形の字。
 「品」は金文の字形に意象を確かめがたいところであるが、祝禱を収める噐を列している形であろう。古文には神霊の監臨するをいう意味を表しているもの多し。


まとめ
 個人的には、「望」の漢字が実に面白い。特に甲骨文字に至ってはまるで漫画である。古代人の巧みな表現力に敬意を表したい



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2021年5月24日月曜日

漢字「童」の成り立ちの意味するもの:捕虜や受刑者の男で、入墨を入れられたり、眼をつぶされた人をいう


漢字「童」の成り立ちの意味するもの:捕虜や受刑者の男で、入墨を入れられたり、眼をつぶされた人をいう
 「童」は捕虜や受刑者の男で、入墨を入れられたり、眼をつぶされた人を表すのに対し、
 「妾」は捕虜や受刑者や、奴婢の女を表す。


漢字「童」の楷書で、常用漢字です。漢字「童」は、戦いで捕虜となった男の子が、奴婢として入墨を入れられたことを表すもので、「辛と目と東と土」からなる。「辛と目」は目上の入墨。このことから、童は受刑者のことをいう。受刑者は結髪を許されず、結髪しない児童をまた童という。漢字「妾」が女が略奪され、奴婢となったことを表す言葉であるのに対応している。
童・楷書


 
「童」・甲骨文字
辛によって目に何らkの刑罰を受けたことを直截的に表現したもの
「童」・金文
甲骨文字にくらべると、より多くの情報を盛り込もうとした後が見受けられる
「童」・小篆
即・甲骨文字
文字を書くことも考え、シンプルに且つ一目で分かる工夫が施されている


    


「童」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ドウ
  • 訓読み   わらべ

意味
  • 子供、児童、未成年者
  • はげる    ・・・頭髪がなくなる、山に草木がなくなる
  • 奴婢、しもべ(召使い) 
  • 罪によってしもべとなった者。男を童、女を妾(しょう)

同じ部首を持つ漢字     鐘、瞳、撞
漢字「童」を持つ熟語    童謡、童顔、学童、児童、河童、牧童




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「童」これは会意文字である。甲骨文字の童の字は体に刑具を科せられた人である。土を積み上げた上でつま先立ちをして遠くを見ている人である。刑を科せられて子供が故郷を渇望している版刻の図形である。

 金文の「童」の字形は、上部は「辛」で押さえつける刑具である。中間は眼で、奴隷の身分を表している。下部は「束」で土と合わせて重の字である。あるいは「種」のことである。ここでは童子のことを示す。だから「童」、乃至捕まって入墨を入れられた単眼の子供の奴隷のことである。

 





漢字「童」の字統の解釈
 漢字「妾」が女が略奪され、奴婢となったことを表す言葉であるのに対して、漢字「童」は、やはり戦いで捕虜となった男が、奴婢として入墨を入れられたことを表すもので、受刑者は結髪を許されず、結髪しない児童を「童」といったところから、児童の意味に転用された。「妾」に相当する漢字であると説明している。


まとめ
 童にせよ、妾にせよ、娶りにせよ戦争の犠牲になるのはいつも、子供であるし、女性である。3500年前から、あるいはおそらく石器時代から連綿と続いてきたのであろう。人間問うのはいつになったら賢くあるのだろうか。



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女の漢字シリーズ:漢字「娶」の成り立ちの意味するもの。上古には女性は戦利品として取り扱われた名残り

女の漢字シリーズ:漢字「娶」の成り立ちの意味するもの。上古には女性は戦利品として取り扱われた名残り

 この記事は2011年にアップしたものに、加筆・修正を加えたものです。

 漢字「娶」には、太古の昔、単なる戦利品としてしか扱われなかった、略奪された女たちの凄まじい怨嗟のうめき声が聞こえる。

 嫁と娶のいずれの漢字も現代では結婚することを示している。同じ意味ではあるが、一方は女性が他の家にとつぐことをいい、他方は男から見た結婚即ち妻を娶ることをいう。しかし、その成り立ちには、大きな違いがあり、男女の立場の違いが明確に出た漢字である。

   「娶」は嫁をとることです。それとは逆に嫁にいくことは「嫁」ぐという漢字で、表現されます。
 私は、この「嫁をとる」と「嫁に行く」という言葉遣いそのものに、そして「娶」という言葉の中に、既にきわめて男中心主義的な匂いを感じざるを得ません。
 そして漢字自体も、「娶」は「女を取ってくる」で、「嫁」はなんで「女+家」になるのでしょうか?嫁に行くのは、少なくとも家に入ることを示しています。「女を取ってくる」という用語から比べると、はるかに格が上であることは間違いがありません。


 漢字「娶」の楷書で、常用漢字です。この文字は女性にとっては、非常に屈辱的な文字です。
 世の中が、母系制社会から、家父長的な父権制社会に変貌を遂げる中で、作り出された文字で、部族ごとに戦争を繰り返し、氏族の発展のために他を略奪する抗争に明け暮れていた時代です。
 略奪された部族は、奴婢となったり、女性は子供を産むための役割しか与えられませんでした。この文字の原義は、「女を取る(略奪)」することなのです。
娶・楷書


 
昔の戦争では、戦功の一つとして、殺した敵兵の数があった。それの証拠として、敵兵の耳を削ぎ落すというものであった。これは秀吉の朝鮮出兵でも、行われている。漢字「娶」には、その行為が明確に刻み込まれている。  
「娶」・甲骨文字
「耳+又(手)」+「女」
から構成される会意文字です
「娶」・金文
成り立ちは甲骨文字を引き継いでいるが、絵画から文字に進化している
「娶」・楷書
「取」+「女」からなり、甲骨文字よりも概念的には明確になっている





 漢字としては「娶」の方がはるかに古く、殷商の時代には既に作られていたようである。

 唐漢氏の「漢字の暗号」によれば、「娶」という字は、大変古い字で、甲骨文字の時期は会意文字であった。甲骨文字の「娶」の字は女の人の右上方に手が耳をつかんでいる形である。 
 
娶は部族間の戦争で勝者が「戦利品」として
女性を略奪したことの名残り
 上古社会には部族間の戦争は頻繁にあった。双方戦いを終結する時、敵を殺した数字を数えるのに、敵の切り取った左耳の数に基づいた。よって、「取」は敵を殺し、耳を切り取ったの意味である。

 殷商時代の部族の戦士は戦争中の捕虜の女性から戦利品から我がちに奪い取り妻にした。

 小篆の「娶」の字は、「女」と「取」の発声から形声字となり、その意味もまた変化を遂げた。「説文」では娶を嫁を取ると解釈している。ここの「娶」は既に「妻を迎える、嫁を娶る」の意味である 明らかに「娶」の字に内包するものは時代につれ変化した。殷商時期は捕虜の女性を取ってくるという意味に用いられ、両周以降は嫁を取るという意味に逐次変化した。

 一方「嫁」の方は「漢字源」によれば、女性が相手の家に入るということで、女偏に家と書いてとつぐと書くようになった。こちらは氏姓制度が確立し父系制が行き渡って後の話である。

 

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2021年5月23日日曜日

漢字・妾 に込められた「女の怨念」は3千年を経た今日でも何ら解放されていない


漢字 妾の成り立ちから何が見えてくる:どこまで「女の怨念」は字の中に、押し込められ続けねばならないか!
 漢字「妾」は以前にも一度取り上げた。しかし、この1、2年「セクハラ」が大きく取り上げられ、男女差別の解消が社会の大きな課題として取り上げられている。
 そこで、以前にこのブログでも取り上げた漢字「妾」を取り上げ、セクハラを漢字の一面から取り上げてみよう。

以前のブログ:女の漢字シリーズ:妾


漢字 妾の楷書で、常用漢字です。妾:この字は会意文字である。
 「辛」と「女」の字で構成されています。この「妾」の字の原字は、「辛」+「女」 の字からなる。

この「辛」とは、入墨を入れる刑具であった。

 太古の昔、戦いで制圧した部族の女を「戦利品」として、奴隷にすることが行われた。この際奴隷であることを明確にするために、女の額に入墨を入れたが、この入れ墨用の針を「辛」といったことから、入墨を入れられた女のことを「妾」と呼んだのがそもそもの始まりである。
妾・楷書


「娶」・甲骨文字
原義は「戦利品」として、
女を取るを意味していた。
「妾」・甲骨文字
女が入墨を入れられ、
「所有」を明確に表している
「妻」・甲骨文字
髪飾りを付けた女に手を
付けた?ことを表している
古人の婚姻制度は決して男女にとっていい形で出現したわけではない。ましてやこの形態の最高の形式であったわけではない。それに反しそれは女性にとっては男の奴隷にもなることを意味した。

 婚姻は全歴史を通じて両性の衝突の宣告と出現するものとなった。
(エンゲルス「家族私有財産国家の起源」より)


    


「妾」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ショウ
  • 訓読み  めかけ・わらわ

意味
  • 「正妻のほかに愛し扶養する女性」、「婚姻した男性の、経済的援助を伴う愛人」を指す言葉です。
  • 妾(わらわ)・・女性が自分をへりくだっていう言葉でわたくしという意味(武家の女性につかわれていた。)  

同じ部首を持つ漢字     接
漢字「妾」を持つ熟語    愛妾、男妾、妾出




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「妾」この字は会意文字である。甲骨文字と金文の「妾」の字は、下の部分は皆ひざまずいた女人の形をしている。女性の頭の上には「辛」 の字がある。上古社会では部族間では常に戦いがあった。領土の争い以外は皆多くは略奪であった。相手方の氏族の女性を捕獲するのは、常に戦争の目的の一つであった。「辛」は捕虜に入墨を入れる刑具であった。「女」の上に「辛」を加えて、略奪してきた捕虜の女であることを示している。 

 はるか昔の時代は、どの氏族も皆女子を捕獲して来て自己の氏族に組み入れ、氏族の産む女性の数を増やすことで氏族の人口の拡充を図った。

 このことは近代社会においては、全面否定されているが、近代化されていない部分においては、未だ隠然たる意識が支配的なところもある。
 

 

漢字「童」の解釈
戦争の悲劇は女性だけではなく子供達にも降りかかった
 「童」これは会意文字である。甲骨文字の童の字は体に刑具を科せられた人である。土を積み上げた上でつま先立ちをして遠くを見ている人である。刑を科せられて子供が故郷を渇望している版刻の図形である。

 


まとめ
 戦争というものは、権力者が起こす最大の犯罪である。そして、その犠牲となるのは、力の弱き女性であり、子供達である。一連の漢字の中にも、その堕としこめられた女性たち・力の弱きものの怨嗟の叫びが聞こえる



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2021年5月20日木曜日

漢字「威」の成り立ちから見えてきた太古の昔の嫁姑争いの泥沼。嫁姑の闘いは太古の昔から続けられてきて、いつ果てるともない


漢字「威」の成り立ちと由来にみる太古の昔の嫁姑争い
漢字「威」は、「女」+「戉」からなる文字です。ここで「戉」とは、昔の武具で、非常に大きな「斧」のことで、斧の化け物みたいなものです。このことは何を意味するのでしょう。
 太古の昔は、小さな部落単位で生活していました。この様な村落では、出自のはっきりしている、女性の力が大きく、、その集団では、年老いた経験豊かな女性が大きな発言権を持っていたのでしょう。
 そういった女性が、村の武力をも動かす力を持ち得たのではないでしょうか。その実態と反映して生まれたのが「威」という漢字だと思われます。
 このことから、威厳、威風などの言葉が生まれたのでしょう.


漢字「威」の楷書で、常用漢字です。「女」+「戉」からなる文字です。これは、嫁から姑を見ていう言葉のようです。ある意味では、すごい漢字で、太古の嫁にとってみれば、姑はこのように見えたのかも知れません。しかし、よりにもよって、戉や鉾など物騒なものが出て来るとは思いもよりませんでした。
威・楷書


  
威・金文 「威」・小篆
「姑」・楷書


    


「威」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   イ
  • 訓読み   該当なし

意味
  • 近寄りがたい ・・・例 威厳
  • 相手や、辺りを圧する気配 ・・・ 例 威圧、脅威
  • 勢い、力   例・・・権威
  • 人を従わせる力  ・・・ 例 威力


漢字「威」を持つ熟語    威儀、威厳、威風




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「威」 《説文》では、「威」は姑なりとしている。女と戉からなる。金文の「威」の字は「女」の上に鉞型の斧の兵器を加えている。まるで女が鉞を担いでいるかのようだ。

 実際女子はもともと兵器とは関係はなく、ここの女は母親を指す。女と鉞の会意で、母親が嫁にしたしつけ教育である。

 





漢字「威」の字統の解釈
 会意文字:戉と女に従う。「説文」に「鉞と女の会意とし、婦が姑を呼ぶ語即ち威姑の義であるとする。

 しかし、白川氏は「威」は「戈」の下に「妥」を加える形であると解釈する。即ち「威」とはもと聖なる兵器で以て、女子を落ち着かせる儀礼をいう。
 鉾や鉞で邪霊を退ける意味から威厳の義がうまれる。


まとめ
 漢字は現実社会の反映である。嫁から見て姑は、鉞や矛を背負っているように見えたのであろうか。太古の昔、まだ人々が小さな部落で狩猟や採取で生計を立てていたころ、女性の地位は果てしなく高かったのだろう。それがやがて農耕で生計を立てるうち貧富の差が出来て、私有財産が蓄積された。人間の欲望はこの時から広がりはじめ、今では果てしなく膨らんで、欲望の泥沼にはまり込んでしまった。人間は欲望の沼に溺れ込むのかもしれない。



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