2021年9月29日水曜日

漢字「親」の起源と由来:古代の漢字・親は、「近しい関係で見ていることができるのが親」であることを今に伝えている。


漢字「親」の起源と由来:身近に接して見ていることができる人を表している
 親の語源については、諸説紛々としている。
  1. 「亲+見」で、木で作った刑具を見る距離が対象とするものとの近しさを表現している
  2. 「亲+見」で。「亲」は木をナイフで切った生木の意で、「見」との会意で、ナイフで身を切るように身近に接して見ていること
  3. 辛を打って選んだ木で位牌を作る意味だが、位牌で拝む対象は親だから
 いずれももっともらしい説明ではある。3番目の説明は、位牌を作るのに木を針で選ぶ、素朴な手法がとられている時代に、親族を祭るいう氏姓制度が発達していたであろうかという疑問は残る。
 いずれにせよ、木をナイフや刀で切るのを見る様を表した漢字というのが、私には最も腑に落ちる解釈である。

約10年ほど前に、「親という漢字の起源と由来」と題して、やはり「親」を取り上げた。しかし改めて読み直してみて、この記事がいささか一面的であり過ぎるように感じ、改めてページを書き起こした。これで過去の一面性は少しは改善されたかも知れぬが、筆者の気休めに過ぎぬかも知れない。

 近年、親の子供殺し、子供の親殺しという事件が後を絶たない。「親」という概念、或いは位置付けが揺れ動いているように思う。これは人間の経済活動が活発になり、従来の社会の関係性が崩れつつあることを示している。

  親という漢字の生まれと成り立ちを見ると、近代の社会発展にもかかわらず、結局は「近しい関係で見ていることができるのが親」ということに帰結することになる。

漢字「親」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「亲」、「右側は「見る」で語義は、辛を打って選んだ木を見て神位とするの意である。
親・楷書


  
親・甲骨文字
建屋あるいは廟の中で木に針を打っている様を表す

単純に建屋の中で木に細工を加えている作業を表しているのかも知れない
親・金文
廟の外に出て、辛を打った木を見て観察している様

木に細工を加えている作業を表しているであれば、屋内である必要ななく、余計な事物は排除されたのではないか
親・小篆
金文を承継しているが、記号としてより鮮明に意味が伝わるようにしたもの

文字として、抽象化し、洗練された表現方法となった


    


「親」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   シン
  • 訓読み   おや、ちか(しい)、した(しい)

意味
     
  • おや(子を新しく作り出す行為を行い、子を作り出した男・女)   例 親子
  •  
  • したしい  
      互いに打ちとけて仲が良い       例:親友
      近い  「血筋(血のつながり)がある  例:親戚
  •  
  • したしむ   動詞 

同じ部首を持つ漢字     新、薪
漢字「〇」を持つ熟語    親密、親戚、親族、親指、親類、親権




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 辛は刑具で、木で作った刑具を架せられた人を近く見ることとしている。近くに張り付いていて、中途半端な距離ではなく、極めて近い距離にあることを示している。

 



漢字「親」の漢字源の解釈P1438
 会意兼形声:「亲+見」で。「亲」は木をナイフで切った生木の意で、「見」との会意で、ナイフで身を切るように身近に接して見ていること


漢字「親」の字統の解釈
 亲は辛を打って選んだ木でこれを切るのは新(亲+斤)これで神位を作って祭るものは親である。
 説文に「至る也」とあり。また神位を拝するを親といい 親の廟中でその儀礼をおこなう意である。


まとめ
 漢字「親」もまた、古代の生活の発展が漢字の中に刻み込まれている。この解釈が正しいのかどうかはわからない。しかし、漢字は社会の発展過程を如実に再現しているように見える。今後のさらなる研究に期待したい。

 結局、近代の社会発展にもかかわらず、結局は「近しい関係で見ていることができるのが親」ということに帰結することになるというのが、古代の文字から得た私の現在の結論だ。



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2021年9月22日水曜日

漢字「寛」の成り立ち:廟の中で巫女が緩歌漫舞する様を表す。緩やか、寛容の意味が生まれた。今こそ求められる寛容の精神


漢字「寛」の成り立ち:廟中の巫女が緩歌漫舞して祈る様をいう。このことから、物理的な広さではなく人の気象・態度についていう語
 近年特に感じるのは、人々の寛容さがなくなって来ているのではないかということである。
 それは特にネットの上で顕著に現れている気がする。ネットに現れた片言隻語に対し、すぐに攻撃する、相手を叩き潰すということが日常茶飯事である。それほど重要なことでもない、いわば物事の枝葉末節に部分においてすらその非を全く認めない議論が横行している。そこまで言わなくてもと思うのだが、どうにも規制が効かないようだ。なぜ人はこうも完全なものを求めるのだろうか。攻撃する本人は人にそれほど完全なものを求めるほどに完全なのであろうか。社会はまだそれほど成熟していないということなのか。今から2500年ほど前の中国で諸子百家が活躍していた時代と人間は何ら成長していない気がしてならない。

 寛の使い方は、寛容、寛大などに見られるように、物理的な空間の広さではなく、人間の心象、態度についていう言葉ばかりである。物理的な空間の広さを表す「広」とは、使い方に於いてはっきりと区別ができる。


漢字「寛」の楷書で、常用漢字です。
説文では、「寛」は家が寛大なり」すなわち、部屋の広い壁、面積が大きいことといっています。このことから一般的な意味の上で広々として広大とを示し、狭いとの対比を示しています。拡張して、心が広い、ゆったりとしているという意味を持つようになりました。
 この解釈は説文によるところであるが、白川氏は全く逆に人の気象・態度についていう意味がこの語の基本であると主張している。
寛・楷書


  
寛・金文
廟中の巫女が緩歌漫舞して祈る様をいう。
寛・小篆
金文を引き継いでいる


    


「寛」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   カン
  • 訓読み   ひろ(い)

意味
     
  • ひろい  家などが広い
          心がゆったりしてゆとりがある
          他人の意見をよく受け入れる気持ちを持っている」 例:寛大
          ゆるやか(例:寛刑)
          のびやか(心が穏やかで生き生きしている)
       
  •  
  • 動詞  ゆるめる
  •  
  • 動詞  ゆったりする、くつろぐ

同じ部首を持つ漢字     寛、莧
漢字「寛」を持つ熟語    寛大、寛容



引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「寛」は会意文字です 。 古文の漢字は 居室の中の内という意味です 突出した二つの目と眉毛の人間が書かれ、これでもって人の孤独に返って部屋が広く大きいことを示し、強調しています。
  小篆の寛の字は金文を受け継ぎ、ただ一つ眼と眉毛が一個の首の字に代わっていますが、下辺の人の形は儿の字になって、一人の文字の形成文字を形成しています 。

 



漢字「寛」の漢字源の解釈
 中が丸くゆとりがあって、自由に動ける大きい家


漢字「寛」の字統の解釈(P127)
 会意文字。旧字は寛に作り、宀と莧とに従う。宀は廟、莧は眉に呪飾を加えた巫女。寛は説文に「屋、寛大なり」とするが、廟中の巫女が緩歌漫舞して祈る様をいう。
 その気象は寛緩、ゆえに寛大、寛容などの義が生まれる。家の大きさをいう字ではなく、すべて人の気象・態度についていう語である。

まとめ
 人々は古代は寛容で、寛大であった。いつから狭窄で攻撃的になったのか。古代は為政者は他を攻撃し自らの勢力を維持していたようだが、庶民は宗教が違っても、同じ社会に生きている限り、実に寛容に相互に認め合って生きていたことが文献の中でも伺える。人間は失った寛容を取り戻すことなしに、決して明るい未来は築き得ない。



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