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2023年11月1日水曜日

漢字「聖」の成立ちと意味するもの:人は只聞こえるレベルから聖人の話を拝聴するレベルに到達したのか?


人は如何に「きこえる」レベルから神に近いレベルの発話者の話を傾聴する「聖」にまで到達したのか

 前回、漢字「聖」が聞や聴と同じ一つの系統に属することを知り、目からうろこの感じがしたのだが、今回はその「聖」に焦点を当て、聖の成り立ちや由来に迫ってみよう。


 話変わって、11月11日はキリスト教徒では特別の日で、【万聖節】というのだそうで、そのことが毎日新聞のコラムに掲載されていたので、引用する。

 第826回 「毎日ことば」 解説

きょうが特別な日
 ばんせいせつ【万聖節】 キリスト教 で聖人たちを記念する祝祭。この場合の万 は「全ての」、節は「特別な日」との意味 です。「諸聖人の祝日」などともいい、カトリックでは11月1日。
 ハロウィーンはその前夜祭ですが、日本ではそちらが有名に。
https://salon.mainichi-kotoba.jp




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漢字「聖」の今

漢字「聖」の解体新書


漢字「聖」の楷書で、常用漢字です。
 
聖・楷書


 
 「きく」ことを表す漢字であるが、只きこえることを表す漢字「聞」から出発し、拝聴するの「聴」を経由し、神に近いレベルにまで達した人間の話にききいる「聖」までの変化をよく見ていただきたい。 
聞・甲骨文字
聴・金文
聖・小篆


 

「聖」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   セイ、ショウ
  • 訓読み   ひじり

意味
  • 物事の筋道を立てて、偏ってなく、高潔である状態
  •  
  • 清らかな。汚(けが)れがない。美しい。濁った所がない。透き通っている (聖域)
  •  
  • 天子(国を治める最も地位の高い人)。また、天子に関する物事の上に付ける語」(例:聖断)。
  • 詩人・杜甫のことを詩聖と呼びます

異体字     琞、垩
同じ部首を持つ漢字     聞、聡、聲、職
漢字「聖」を持つ熟語    聖、聖断、聖域、聖人


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漢字「聖」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 甲骨文の形は、人が耳を立てて人の教えを注意深く聞いているようなもので(耳の下に「口」があります)、聞いたことをはっきりと話す、つまり「聞く」という意味とも取れます。わかりやすく、わかりやすく説明すること。 金文は甲骨文から引き継がれていますが、「耳」の下の人型がわずかに変更されています。
小篆書の形は、「耳から嘉文へ」という意味に進化しました。小篆書の全文。楷書の口は壬の音から来ています。「壬」はここでは口と耳の間を「通過する」という意味です。 そのため、楷書は「聖」と書かれ、現在は「圣」となっています。


漢字「聖」の字統の解釈

 会意 旧字は耳と王と口とに従う。耳と王とは耳 を強調した人の形。壬は呈(呈)・逞・望(望)の字の従うところで、人のつま先立ちする形。口は、サイ、祝禱を収める器である。
聖は祝稿して祈り、耳をすませて神の応答するところ、啓示するところを聴くこ とを示す字で、聽(聴)の従うところも聖と同じ。 聞の卜文も、人の上に耳をかく形である。祝祷し 神の啓示するところを聞く者はその神意にかなうものとされた。

漢字「聖」の漢字源の解釈

 会意兼形声。壬は、人が足をまっすぐのばしたさま。呈 は、それに口をそえて、まっすぐ述べる、まっすぐさし出すの意を示す。聖は「耳+音符呈」で、耳がまっすぐに通ること。わかりがよい、さといなどの意となる。



漢字「聖」の変遷の史観

文字学上の解釈

  字統の説明《聖は西周期の金文にみえ、〔班段〕「文王王の聖孫」、〔師望鼎〕「王、聖人の後を忘れず」、〔師詢段〕「乃の聖なる祖考」のように、その家系を尊んで特に聖の字を加えている。 また〔史牆盤〕「憲聖なる成王」と、その徳を讃して聖武・哲聖のようにもいう。本来は聖職者をいう 語であったものが、ひろくその徳性をいう語となり、 西周後期にはすでに多くの人に用いられる語であったらしい。(紀元前1100年頃 - 紀元前771年:筆者)
 〔詩、小雅、正月〕に「具予をば聖なりと謂ふも誰か鳥の雌雄を知らんや」の句がある。 人はみな、自ら聖と称してはばからなかったのであろう。》

 といっても始皇帝の中国統一に先立つこと500年まさに戦国時代の真っただ中、群雄が覇を争っていた時代である。群雄の覇者は自らのアイデンティティーを求めて苦労していたが、その一つに軍事的な力以外に拠り所の一つとなった概念であったのかもしれない。

 そしてついにこの概念を哲学的な体系の中に組み込んだのが孔子であった。ここまで考えると漢字「聖」という言葉一つにしても、それなりの歴史的背景を担っていたのだという感慨を受ける。


まとめ

 ただきこえることを表す漢字「聞」から出発し、拝聴するの「聴」を経由し、神に近いレベルにまで達した人間の話にききいる「聖」まで後付けてきた。聞くという行為だけでも、発話者の権威を高めることの背景に社会の階級分化が事が伺える。この間、約1000年の時間的経過を経ている。文字の変化が歴史的時間経過に必ずしも同期するものではないが、おおざっぱな歴史的経過をたどるには役に立つのかも知れない。
  


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2023年10月25日水曜日

中国語でクリスマスは「聖誕節」(簡体字:「圣诞节」)という。この「圣」の語源は? その成り立ちと由来を探る!


クリスマスのことを中国語で「圣诞节」という。この「圣」という字はどこから来たのか?







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漢字「聖&圣」の今

漢字「聖&圣」の解体新書


 
漢字「聖&圣」の楷書で、常用漢字である。圣は聖の簡体字となっている。
圣・楷書 聖・楷書



  
圣・甲骨文字
圣・小篆
圣・楷書


 

   

「聖&圣」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   コツ・コチ、セイ
  • 訓読み  ー  

意味
  • 土を祀る
  •  
  • 聖の簡体字
  •  
  • 古代の墾田の儀をつたえる字

同じ部首を持つ漢字       圣、「巠」の簡体字ではないことに注意という説もある(「巠」の簡体字は「经・轻」の旁で、片仮名「ス」「エ」を組み合わせた形のもの)
漢字「聖&圣」を持つ熟語    聖&圣、圣诞节、圣地亚哥(サンチャゴ)


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漢字「聖&圣」成立ちと由来

引用:「字統」(P323、白川静著、平凡社)
現代では殆ど聖の異体字として説明されているが、字統には他のものとは全く異なるアプローチがなされている。確かに漢字「聖」と「圣」の甲骨文字には驚くべき相違がみられる。





漢字「圣」の字統の解釈P323

会意: 土と又とに従う。土は土主。又は手の形。
土を祀る意で、開墾のとき地霊を祀ることをいう。 ト辞に「圣田」をトする例が多く、その字は土の上に収(きょう)、すなわち左右の手を加えている。土主を奉じ、地霊を祀る意である。 【説文】に「汝穎の閒 じよえい (河南中央部)、力を地に致すを謂ひて圣といふ」とし、その音を窟とする。ト辞以後の用例はみえず、 古代の墾田の儀礼を伝える字である。


漢字「聖&圣」の漢字源の解釈P313

会意文字; 「土+又(手)」。怪の構成要素となる。
 現代中国で「聖」の簡体字に用いる。



漢字「圣」の古代の解釈

 昔は、最も高貴な人格と最も優れた知恵を備えたいわゆる人々を聖者と呼んだ。
 最も崇高であり、崇拝されるものの名​​誉称号、「神聖」。 聖なる。 聖地。 聖書。
 封建時代の皇帝を讃えた言葉「陛下」。 勅令。
知識と技術において極めて高い功績を持つと言われる技能者。 グランドマスター。



漢字「聖&圣」の変遷の史観

文字学上の解釈


 漢字の持つ機能を他の漢字から借りてくることを仮借というが、私にはこの二つの漢字には何の関係もなかったのではないかと感じられる。
 しかしそれなりの理由があったことかも知れない。今のところ全く不明なので、これ以上の言質は差し控える。





まとめ

 古代文字「圣」が3000年もの眠りから覚めてこの世に復活したのは、ほんの60~70年前のことであった。
 字統で、「ト辞以後の用例はみえず、 古代の墾田の儀礼を伝える字である」と述べているように、久しく人々の目に触れることがなかったようである。

 私は、その6,70年前には中国であったであろう「簡体字検討委員会」みたいなところでの議論を見てみたいものだ。
 中国でも、日本でも多くの人々が『漢字不要論』を提唱したと聞く。前島密、福沢諭吉などその先鋒に立っていたようである。また、中国においても、魯迅、毛沢東などが漢字廃止と存続との間で揺れていたと聞く。これらを認識論の面からももっと明らかになればいいと思う。

  


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2023年10月19日木曜日

漢字「聞と聴」の成り立ちと由来:いずれも「きく」動作を表すが、まったく異なる動作ではないだろうか?


漢字「聞」と「聴」は、古代文字を見る限り、同じ動作を表すとは考え難い


漢字「聞」と「聴」はいずれも「きく」という動作を表すが、古代文字を見る限り、まったく異なる所作でなかった




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漢字「聞と聴」の今

漢字「聞と聴」の解体新書

 
漢字「聞と聴」の楷書で、それぞれ左が「聞」、右が「聴」の常用漢字です。
 いずれも主に「音を耳からきく」ことに使われますが、語彙には微妙な違いがあります。
 これから、原点に戻ってその違いに迫ってみることとします。 
聞・楷書 聴・楷書



 



 

「聞と聴」の漢字データ

漢字「聞」の読み
  • 音読み   ブン、モン
  • 訓読み   きく、きこ(える)

意味
  • 隔たりを通して聞こえる
  •  
  • きく、きいて関係する
  •  
  • きこえる

同じ部首を持つ漢字       𥹢、問
漢字「聞と聴」を持つ熟語    聞、多聞、風聞、見聞
漢字「聴」の読み
  • 音読み  チョウ
  • 訓読み  きく

意味
  • きく。耳を向けてきく。
  •  
  • 聞こうとする意志を持ってきく
  •  
  • きく、したがう

同じ部首を持つ漢字      廰、聽、聖
漢字「聞と聴」を持つ熟語   聴、聴衆、聴講




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漢字「聞と聴」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

 「聞」は会意文字です。甲骨文の形は跪く人が片手で耳を覆いまさに耳を傾けて聞く様子です。人型の上部は特に突き出した耳たぶを示しています。併せて声音の3つの道の横線を示していますこのことから「聞」の本義は傾聴することです。金文は耳を右辺に移しているが、構造は甲骨文を継承しています。小篆は別の途を立てて、改めて字を作って、耳と門の発声ととから会意兼形声文字になっています。まるで一つの耳が貼り付けられて門の中間で傾聴しているかのようです。楷書ではこの縁で「聞」と書きます。簡体化の規則に従い、簡体文字は闻と書きます。

 現代中国語では、「听」という漢字があります。これは「聴」の簡体字で、やはり聞くと解釈されますが、「闻」と「聴・听」の使用には微妙な違いがあります。「听」は動作アクションであり、「闻」は听くことの結果であり、听の結果や听いて見たことを意味します。

漢字「聞」の字統の解釈

〔説文〕に「聲を知るなり」とあり、「往くを聽といひ、来るを聞といふ」とするが、聽(聴)の偏の部分が卜文の聞の初形にあたる。聖 (聖)の初形も、 文はそのに、祝禱の器であるDをそえている形「さい」で、祝して神の啓示を待ち、それを聞きうるもの聖といった。それで聞・聖・聴の字形は、もと一系に属するものである。


漢字「聴」の字統の解釈

旧字は聽に作り、偏は耳と人の挺立する形「てい」、卜文の聞はその形に作る。神の声を聞く人の意で、その旁に祝禱の器のを「サイ」をそえると、聖となる字である。旁は呪飾を施した目と心とに従い、もと目の呪力をいう字である。


この引用枠内は字統からのものではありません

「听」は「聽」の簡体字です。 甲骨の碑文にある「听」という言葉は、「左の耳、右の口」を意味する会意文字です。 金文の最初の部分は甲骨文に倣い、単に「口」を「耳」の形の中に放置しているだけですが、2番目の「聞く」の部分はさらに複雑で、上部は「耳口」の形をしており、古代中国語の「生」と「古」が追加され、過去や起こったことに耳を傾けることを意味します。 


漢字「聞と聴」の変遷の史観

文字学上の解釈

  聞の字形は、戦国期に至ってはじめてみえるもので、字を門声とするものである。 字形字義の推移とともに、その声にもまた 変化を生じたものと思われる。 

まとめ

 漢字「聞」の甲骨文字は象形文字であるが、実に巧みに「聞く」という行動を描写しており、古代人の観察力と表現力に改めて感じ入る。古代文字を分析すると、聞・聖・聴が同一の言葉で、同じ語源を持っているとは驚きだ。また聞くという字形が、戦国時代に至って初めて見えると白川博士はいうが、この字形が甲骨、金文、小篆と時代が移るにつれ、実に革命的な変化を遂げている。この大きな変化の背景には何があるのか、さらなる追求が求められる。
    


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