昨年暮れから今年初めにかけて起こった強盗事件は、従来の強盗の概念を打ち破るものであった。強盗の実行犯をネットで募集し、お互いに顔も知らないものをグループとして編成し、強盗を働かせる、実に手っ取り早く、手荒に現金を強奪するというものである。
これが成立する背景に、今まで考えられない規模で、情報収集がされ、広範囲にネットを通して売買される社会がある。この犯罪は、昔から古典的に語られてきた「賊」などとは全く様相を異にする異質の集団である。この世の中、古典的な犯罪集団「賊」では語れない、不気味なものを持っている。
賊という言葉は、この世に青銅器が発明された、紀元前1500年前ごろからすでに存在していたようである。彼らはそれなりの絆で結び付けられていたと考えられる。しかし、近年、この絆が希薄になり、流動的になっているのではないだろうか。この「賊」の概念に変化が出てきたのではないかと疑われる。
漢字「賊」の楷書で、常用漢字です。 偏は貝で古代は子安貝が貨幣として流通していたことの証左です。また別の一節によると、これは貝ではなく、青銅の鼎という説もあります | |
賊・楷書 |
「賊」という言葉の本来の意味は、力ずくで財産を奪い、占拠することです。 略奪のプロセスは他人の財産の破壊であるため、「賊」という言葉は破壊することにも拡張されています。 例えば「孟子」:「仁を壊すものは賊と言っています。」 「賊」という言葉には、傷害を与える、または殺害するという意味もあります。 宋王朝の学者である蘇軾は、「賊民は同じではないが、兵を好むものは必ず滅びる」という格言を残しました。今でも有用する格言ですね | ||
賊・金文 |
賊・小篆 |
「賊」の漢字データ
漢字の読み
- 音読み ゾク
- 訓読み 常用漢字なし
意味
- そこなう
- しいたげる(いじめる、虐待する)
- ぬすむ、強奪する
同じ部首を持つ漢字 財、
漢字「賊」を持つ熟語 盗賊、海賊、匪賊、義賊、
引用:「汉字密码」(P653、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
「賊」、これは会意文字です。 金文の「賊」の字は、貝と戌の二文字で構成されており、字の外側は戈を持って警護する人のように見える守衛の形で、字の真ん中は貝の字で、古代の物々交換していた時の「貨幣」です。
「賊」という文字には「人・戈・貝」の3つの記号で構成され、これは略奪と所有を意味する。小篆の字形は金文と比べ変化はない。但しパーツには変化がある。「貝」は下から左に移動:「戌」は右に移動 楷書は隷書に変化する過程で変化し、「戌」は「戎」に変更。
唐漢氏は物々交換したころの時代を表すとしていますが、貝が貨幣として使われt時代は、もう少し下って、貝が共通の価値を表すシンボルとして使われたころと考えると、貨幣経済の走りの時期と見ていいでだろう。もちろん物々交換もかなり残っていたであろう。
正字は鼎と戎に従う。その昔、重要な盟約を結ぶときは、鼎に銘を入れて、盟約を交わしたが、その鼎銘を入れた重要な誓約を破棄するときは、この銘をを戈で削り取ることで、破棄したとのこと。この銘を削り取る行為を賊という。賊とは故意に銘文を剥ぎ取りその契約を破棄する行為をいうものである。
漢字「賊」とは、単に人の財産を略奪し、奪い取るものだという解釈であったが、字統によると、盟約を破棄するために、盟約の際に鼎に彫り込んだ銘を戈で削り取るという解釈は、説得力がある。
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