【漢字考古学】人間の「業(ゴウ)」を優しく手なずける3つの処方箋
人間の業(ごう)って何だ?
漢字「業」の意味は、仏教伝来を境として、大きく変換した。甲骨文字には作業としての「業」の字は現れておらず、柄の長い器という意味をしているようであった。この字にいわゆる仕事としての意味付けがなされたのは、少し時代が下ってのことのようであり、『詩経・周頌・有瞽』の句「設業設虡」が最初であろうといわれている。詩経の「周頌」は西周初期(概ね前11〜10世紀ごろ)の作品群とされている。導入
このページから分かること
わかる
- 太古の昔、中国が春秋戦国時代を乗り越え、新しい価値観を探し求めていた時代、人間をもう一度邂逅する流れが生じたのではないだろうか。その時に仏教がかの地に流れ込んだのは、歴史的必然か?はてまた偶然なのか?
- 粗ぶる人間の「業(ゴウ)」を優しく手なずける方法がわかる
目次
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漢字「業」の今
漢字「業」の成立ちの解明
漢字「業」の楷書で、常用漢字です。 字の成り立ちには諸説あり、上部に鑿歯、下部に長い柄のある器の形。 〔説文〕三上に「大版なり。鐘鼓を飾縣する所以なり。捷業は鋸齒の如し。白を以てこれを書く。その鉏語相承くるに象るなり」とあって、楽器をならべて懸ける梅虜のことであるとする」との説もあるようだが、字統では、「業とはその撲つ器。その柄のあるものを業といい、版築によって城壁を作る土木工事を業といった。」と結論づけている。ここでもその説を受けとめる事とした。 | |
業・楷書 |
ここで金文、小篆の例として採用したものは、字統にある「仕事」を表現する漢字としての「業」である。考古文字として掲げたものは、漢字源から器を表現している字形を採用している。 | |||
業・金文 |
業・小篆 |
業・甲骨文字 |
「業」の漢字データ
漢字の読み
意味
同じ部首を持つ漢字 僕、撲、業
漢字「業」を持つ熟語 業、業績、稼業、罷業、
- 音読み :ギョウ ゴウ
- 訓読み :わざ
意味
- 仕事
- 行ない
- 功績
- ゴウ:自分では制御出来ない行い
同じ部首を持つ漢字 僕、撲、業
漢字「業」を持つ熟語 業、業績、稼業、罷業、
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漢字「業」成立ちと由来
参考書紹介:「落合淳氏の『漢字の成立ち図解』」
漢字「業」は何を意味する
漢字・業の3款 |
業の用義からみても、その字は作業的な意味をもつものと思われるが、〔爾雅、釈器〕に「大版これを業と謂ふ」とは枸虞のことではなく、版築をいう。
版築は両版の間に土を加え、これを撲ち固めるもので、業とはその撲つ道具。その柄のあるものを業といい、版築によって城壁を作る土木工事を業といった。それは大規模に行なわれるもので、〔詩、大雅、常武〕 「赫々業々たる天子あり」、〔小雅、采薇」「戎車既に駕し 四牡業々たり」とは、いずれもその盛大なるさまを形容する語である。
のちすべて事業のことをいい、〔爾雅、釈詁〕に「業は事なり」、「易、 乾卦、文言伝」に「君子、徳を進め業を修む」、「孟子、梁惠王、下〕「君子、業を創め統を垂る」のように用いる。宿業・業苦の業は仏教語の Karman の訳語である。
漢字「業」の漢字源(P813)の解釈
漢字・業の3款 |
象形文字:ぎざぎざのとめ木の付いた台を描いたもの。
凸凹があってつかえる意を含み、すらりとはいかない仕事の意となる。
厳(いかつい)・岩(ごつごつした岩)などは語尾が転じた言葉で、「業」と縁が近い。
漢字「業」の字統(P203)の解釈
業の用義からみても、その字は作業的な意味をもつものと思われるが、〔爾雅、釈器〕に「大版これを業と謂ふ」とは枸虞のことではなく、版築をいう。版築は両版の間に土を加え、これを撲ち固めるもので、業とはその撲つ道具。その柄のあるものを業といい、版築によって城壁を作る土木工事を業といった。それは大規模に行なわれるもので、〔詩、大雅、常武〕 「赫々業々たる天子あり」、〔小雅、采薇」「戎車既に駕し 四牡業々たり」とは、いずれもその盛大なるさまを形容する語である。
のちすべて事業のことをいい、〔爾雅、釈詁〕に「業は事なり」、「易、 乾卦、文言伝」に「君子、徳を進め業を修む」、「孟子、梁惠王、下〕「君子、業を創め統を垂る」のように用いる。宿業・業苦の業は仏教語の Karman の訳語である。
中国古代の3大土木事業
中国の古代の3大土木工事といわれる土木事業をまとめました。これらの事業は非常に大規模で私はいずれも「業」という名にふさわしい一大事業だったと思います。これはあくまでも個人的観測にすぎませんが、、これらの事業に携わった人々は、ある種の宿命のようなものを感じたのではなかろうかと思います。
これらの規模もさることながら工期は中には1000年以上も及ぶものもあり、日本人の感覚からすると及びもつかない壮大なものです。というわけでこれらは中国人にとってはやはりある種の「ごう」であったろうと感じてしまうのです。
参考
版築(はんちく)=「型枠(=版)」の間に湿らせた土(砂・粘土・礫、時に石灰や藁・籾殻を混ぜる)を薄く敷き、杵で突き固め(=築)て層を積み上げる土工法――いわゆる“rammed earth(たたき)”です。
手順
用途と特徴
手順
- 木の板で型枠を立てる
- 土を5–15mm…ではなく「5–15cm」ほど入れる
- 夯(ハンマー)で徹底的に突き固める
- これを繰り返して所定の高さにし、型枠を外す
用途と特徴
- 古代中国の城壁・長城、都市の基壇、日本の土塁・古墳基壇などで広く使用
- 現地材料で強固な壁・基礎を作れる(圧縮には強い)が、雨侵食に弱いため漆喰や石張りで表面保護するのが通例
漢字「業」の変遷の歴史
文字学上の解釈

恐らく仏教が伝来する以前は、単に「事業・大事業」を表していたものが、仏教の伝来以降仏教用語の意味としても解釈されるようになったと考えるのは当然の成り行きである。
そしてBC3世紀には秦の始皇帝による万里の長城の大工事がすでに始められ、隋の煬帝では大運河の掘削が行われ、さらに秦の時代(BC221~BC206)に「都江堰」の水利事業が完工されている。当時の蜀の郡守・李冰が創建者で、その後歴代の増修によって完全なものになったとされている。
これだけとっても、当時の事業に駆り出された民衆はある種の「業」を感じるには十分であったろうと考える。
業(カルマ)はサンスクリット語で、過去の行為は、良い行為であっても悪い行為であっても、いずれ必ず自分に返ってくるという意味がある。

仏教における「業(ごう)」の主な意味
- 行為そのもの: 身体的な動きだけでなく、言葉や心の中で考えることも「業」に含まれる。
- 行為がもたらす結果: 行いはすべて、その後の運命に影響を与える原因となると考えられている。良い行いは良い結果(楽果)を、悪い行いは悪い結果(苦果)をもたらすとされる(因果応報)。
- 宿命や報い: この考えが転じて、「業が深い」「自業自得」といった言葉で、避けられない宿命や過去の行いによる報いを指すようになった。
日常的な使い方
現代では、必ずしも仏教的な意味合いだけでなく、以下のようなニュアンスで使われることがある。
- 業が深い: 「悪縁が深い」など、なかなか断ち切れない因縁や悪い癖があることを指す。
- 業を煮やす: 腹を立てる、怒るという意味で使われる「業腹(ごうはら)」の略。
- 自業自得: 自分のした悪い行いの報いを自分で受けることを意味する。
「業(ゴウ)」を優しく手なずける3つの行動原則
ここでは、業に対する心構えとして、「業(ゴウ)」を優しく手なずける3つの行動原則をここにカミングアウトする。- 「業」の習性をよく知り、慣性力を「受け留める」
原則: 「業」は人類の進化の産物即ち歴史的産物であり、消去できるものではない慣性力であることをまず受け入れる(否定しない)。
行動: AIや市場の暴走を「悪」と断じるのではなく、「人間が生み出した最大の力」として冷静に観察する視点を持つ。この距離感が、短期的な感情的な反応から脱却し、長期的な戦略を可能にする。 - 「感情」をシステムから切り離す
原則: システムを突き放し、入れ込まない。これこそが、システムが奪えない人間の領域を護り、客観視できる。
行動: 計量できない主観的な価値(例:無駄に見える創造的な時間、利益に直結しない他者との共感、アート、純粋な好奇心としての探求)に意識的に時間とエネルギーを投資する。これこそが、システムが奪えない人間の領域を再主張する戦略となる。
- 「協働」の対象を「再定義」する
原則: 原則を保ちながら、細かいことに囚われず、大きく構える。太古の昔に感情が生まれた「初期の協働の形」を現代に蘇らせ、暴走するシステムに対し、人間的な感性のブレーキをかける。
行動: **「目の前の他者」との、利益計算に基づかない「言葉」による真の対話を重視する。これは、太古の昔に感情が生まれた「初期の協働の形」**を現代に蘇らせ、暴走するシステムの「慣性力」に対し、人間的なブレーキをかける役割を果たす。
まとめ
私たちは、時に人間が自らの意志で行動するのではなく、何かに突き動かされているのではないかと感じることがあり、これが「人間の業」だと表現されることも見ている。特に最近、世の中が非常に猛々しくなり、世界中で紛争が尽きない状況を見ると「人間てどうなっているんだろう。愚かだな!」と嘆きたくなってしまう。ここで、「業」を東洋哲学の観点で、一度立ち止まって見直してみることも必要かもしれない。
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