政は「正」と「攴」からなる。正は他邑(くに)を征服する意味を持つ。 他国の支配のために攴撃を加えることを政という。
本稿は2012年2月8日に発行の「漢字「政」の起源と由来」を全面加筆修正したものである。
漢字「政」の基本字素は「攴」である。攴の意味するところは、こん棒で殴りつけることである。
では、そもそもこの政治の「政」という字はいかなる意味を持っていたのか?
そしてそれは、どのように使われたのか。
この問いに最も端的にこたえる例がある。それは、秦の始皇帝ではないだろうか。始皇帝は自身は韓非子の教えを、自身の骨の髄まで叩き込み、成長してからは法家の後継者 商鞅・李斯を取り立て、法による支配を国是とする一大帝国を作り上げた。
その始皇帝の諱名は「政」であった。これは彼の生前の名前でもあったが、「その意味するところは、他邑を攻撃征服することを示す字」であり、他をこん棒でもって殴り倒してでも他の国・邑を制覇することが、正義であるという考え方に基づき、生涯を全うした。
始皇帝の名前「政(せい)」の由来は、生まれた年に関係しているということです。<「かみをたてまるつ>
彼の本名は嬴政(えいせい / イン・ジェン)で、「政」という名前は、彼が誕生した紀元前259年が「正月の月(政月)」から来たといわれています。「政月」は、戦国時代の秦で使われていた暦法(秦暦)における1月の別称であったということです。そのため、生まれた時期にちなんで「政」という名前がつけられたとされています。
また、「政」には「統治する」「治める」といった意味もあり、王族の名前としてもふさわしい文字だったと考えられます。始皇帝の名前「政(せい)」の由来は、生まれた年に関係しています。
導入
前書き
目次
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漢字「政」の今
漢字「政」の解体新書
漢字「政」の楷書で、常用漢字です。 漢字「政」を決定づける基本字素は「攴」であり、この攴が付く漢字には、「改、救、攻、放、故」等数多くあるが、いずれも「力ずく」でものごとを行うという意味を暗示している。そのことを踏まえ、これらの漢字を吟味すると、今まで見落としていた漢字の味わいが見えるようになること請け合いだ。 ここでいう基本字素とは、筆者が命名した造語であるが、旁や偏が、漢字の成立ちの構成要素であるのに対して、漢字の意味を「決定づける基本的な要素」と定義した。この見解を広く世間で主張するつもりはないが、少なくともこのブログでは、この定義に基づいた使い方をするつもりだ。 | |
政・楷書 |
政・甲骨文字 |
政・金文 |
政・小篆 |
「政」の漢字データ
- 音読み セイ
- 訓読み まつりごと
意味
- 「まつりごと(国家の権力者が領土・人民を治める事)」(例:政治)
- 物事を整え治める方法
- おきて(決まり、法律)、政治を行う時の仕組み・制度
同じ部首を持つ漢字 改、救、攻、放
漢字「政」を持つ熟語 政、政治、政界
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漢字「政」成立ちと由来
引用:「汉字密码」(P649、唐汉著,学林出版社)唐漢氏の解釈
「政」この字は会意文字であり形声文字でもある。「説文」では「政は正なり」と解釈し、「支」と「正」から来て、発声は「正」を取ったとしている。金文の「政」の字の右辺は棍棒を手に持った形で、左辺の下部は「足跡」があり、歩みを表す。上部は一本の短い横棒で行動の目標を表す。明らかに政の字の構造の意味するところは、自ら棍棒を用いて他人を既定の目標に向かわせようとすることである。小篆は金文と相似であるが美観は一層整っている。
漢字「政」の字統の解釈
形声 声符は正。 正は他邑を攻撃征服することを示す字。 その支配のために攴撃を加えることを政という。
正は征服、征は賦税、政が支配の形態を示す字である。〔説文〕に「正なり。 攴に從ひ正に従ふ。正は亦聲なり」とするが、正・征・政は一系 の字とみてよい。
金文に征を征行・征伐に、政を政治的支配の意に用い、それぞれの字義がすでに分化 している。
漢字「政」の漢字源(P673)の解釈
形声文字。正とは、止(あし)が目標の一印に向けてまっすぐ進むさまを示す会意文字。
征(まっすぐ進む)の原字。政は「攴+音符正」で、もと、まっすぐに整えること。
漢字「政」の変遷の史観
「政」の意味の変化及び中国の「政」と日本の「政」
漢字「政」は正に加え、攴(こん棒でなぐるを意味する)が加えられ、その意味がより一層明確になった。太古の昔は、暴力が支配し、それが正義とされた時代が確かに存在したということである。
しかし、人間が増え、社会の交流が活発になるにつれ、「こん棒で殴り、言うことを聞かせる」方法だけでは立ち行かなくなった。人間は次第にお互いの意見を調整することを覚え、意見を調整する制度的仕組みを作り出す。太古の邑が国という仕組みを構築するためには、人口は100万人が必要であるといわれる所以はここにある。かくして、国家が登場する。この経過は、ヨーロッパで、中世に出現した夜警国家にも通ずる部分がある。
中国では、「政」とは支配者が、他邑を攻撃征服することを示す字。 その支配のために攴撃を加えることを政というが、日本ではこの「政」を婉曲な表現でまつりごとという。「まつりごと」とは直接的には「神を奉る」という意味であるが、中国と比べると随分遠回りをした言い方になっている。この表現の違いこそ、日本の民族性を如実に示したものではないかと思っている。単刀直入に言えば中国の漢字が直接的な表現であるのに対し、日本では神を持出して、自らを権威付けようとしている。この他日本では、「死」⇒逝去、「盗む」⇒拝借、老→高齢、病→おかげん、殺す→成敗など直接的な表現を避け、敬意や柔らかさを含んだ言葉に変える傾向が強いようだ。
「政」に関連する故事や成語には、政治や統治に関するものが多くあります。
- 政は正なり! 「政」という字は「正(ただしい)」という意味を含むため、政治は正しく行わなければならないという考えを表します。古代中国では、良い政治は「正しい道を行うこと」とされ、君主や官僚にとって重要な指針とされました。
- 苛政は虎よりも猛し(かせいはとらよりもたけし) 原典:『礼記』「苛政猛於虎」 意味:悪政は、人々にとって虎よりも恐ろしいというたとえ。政治が腐敗し、重税や圧政が続けば、人々の生活は苦しみ、逃げ出すしかなくなることを指します。
- 徳政(とくせい) 原典:儒教思想 意味:道徳的な政治を行うこと。君主や為政者が仁徳をもって国を治めることが理想とされました。日本では「徳政令」として、借金帳消し政策などを指す言葉にもなりました。
- 問政(もんせい) 原典:『論語』 意味:為政者が民の声を聞き、政治を問うこと。儒家思想では、民の意見を取り入れることが良い政治の基本とされていました。
どれも「政」の本質を考えるうえで重要な教えですね。
まとめ
正は甲骨文字では「□+止」と書き、その意味するところは、他邑を攻撃征服することを示す字。漢字「政」は正に加え、攴(こん棒でなぐるを意味する)が加えられ、その意味がより一層明確になった。後に「まつりごと」などとカモフラージュさせた解釈がされるようになるが、いくら曖昧にしようとも、もともと古人が、「政」という漢字を作り出したその意図は、権力こそが正義としたことに他ならない。太古の昔は、暴力が支配し、それが正義とされた時代が確かに存在したということである。しかし、権力者のし好は時代が下っても変化はない。
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