気ままな散歩

2022年1月1日土曜日

漢字「虎」は実に威風堂々としている。荒々しいが、気品もある。古代人の表現力には舌を巻く


 来年の干支は寅年である。このような生物による紀年法が定着したのは、後漢になってからといわれているが、ウィキペディアによると「十二支と十二獣がいつから結びつけられたのかは不明であるが、1975年に湖北省雲夢睡虎地の秦代の墓から出土した竹簡には既に現在のように動物が配当されている様子が伺われる。

  後漢の王充が著した『論衡』物勢篇では、十二支を動物名で説明しており、これによって干支の本来の意味が失われ、様々な俗信を生んだ。ただし、日、月、時刻、方位などを干支で示す慣習が廃れた今日でもなお、干支紀年に限っては今なお民間で広く定着している要因ともなっている。日本の風習である年賀状などにも動物の絵柄が好んで描かれているが、下表のとおり、配当される動物には国によって違いが見られる。

 いずれにせよ、十二獣と干支との間には何の科学的根拠もないと考えられている。

 唐漢氏はこの寅を人間の出生の一過程を表現するとみなす説に立っている。
寅が十二支に占める位置は第3位である。これも会意文字である。
 甲骨文字の寅の字は繁簡両方の型式を持っている。その一は上部の矢の形に同じ符号である。これは臍の緒が繋がっている方向を示している。下部の符号「文(父)」は即ち母親の産門を示したものだ。そして中間の口は産門の内外を示したものである。三つの形の会意で、胎児が出産後、胎盤からまだ出ずに,臍帯がつながった状態を示している。

  虎は寅ではない。干支の寅歳に虎をあてたものだが、当てられた虎もハタッと困ったことであろう。「百獣の王」は獅子というが、私から言わせれば、百獣の王は紛れもなく虎だと思う。獅子と虎が同じ環境に住めば、間違いなく虎が君臨すると思う。


それ故、古代から虎は畏敬の念を以て人々に敬われ、恐れられてきた。
 虎を含む成語には数限りない。

漢字「虎」を含む成語、ことわざ
  • 不入虎穴,焉得虎子虎穴(虎穴に入らずんば、虎児を得ず):
    もっとも有名な成語。班超が西域で匈奴に囲まれ窮地に陥った時危機を脱出した時に入った言葉
    危険を避けていただけでは、成功は望めない
  • 虎視眈眈 :じっくりと機会を狙っている状態
  • 苛政猛虎:悪政は暴れる虎よりも恐ろしいことをいう
  • 暴虎馮河:血気にはやって、無謀な行動を起こすこと。孔子が弟子の振舞いに危惧の念を抱き、戒めた言葉
  • 狐仮虎威:権力のある者の威勢を借り、威張り散らすこと『戦国策』より
  • 画虎类狗: 虎を画きてならず、反りて狗に類す。『後漢書・馬援伝』素質のないものが優れた人のまねをして軽薄にふるまうことを戒めた 
  • 虎尾春冰:虎の尾を踏むことや春先に雪解けの時に凍った氷上を歩くこと。非常に危険な振る舞いであることの譬え
  • 騎虎之勢:隋の皇帝楊堅の皇后独孤が夫が隋という国を建てようとしたときに、
     夫を励ました言葉。虎に乗ったものは、途中で降りて虎に食われてしまうので、途中でやめるわけにはいかないという意味
  • 官虎吏狼:官は虎の如く、吏は狼のごとし。官吏が暴虐を貪ることの比喩
  • 虎頭蛇尾:最初は勢いがいいが尻すぼみになること。類語に『竜頭蛇尾』がある。
  • 虎渓三笑:あることに熱中して、他のことを忘れてしまうことの譬え
漢字「虎」の楷書で、常用漢字です。
 虎と言う古文字は実に芸術的だ。どれもこれも虎の荒々しさを余すところなく、生き生きと表現していいる。
寅・楷書


  
虎・甲骨文字
虎の全形そのもの
虎・金文
荒々しい虎の状態を表している漢字
虎・小篆
図形・象形から文字としての符号化の過程を示す


    


「虎」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   コ
  • 訓読み   とら


同じ部首を持つ漢字     虎、虚、虜、號、膚
漢字「〇」を持つ熟語    虎杖、虎魚、虎巻、




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 虎は」象形文字である。甲骨文字の虎の字は、上を向いて大きく口を開け体には美しい斑紋を持ち、尾と足まで全体が猛虎の形象を示している。字の全体は猛虎が立った側面の図である。
 実際上古の人々はこのように画を刻み、漢字の横に細く縦に長い漢字の構造に合わせた特徴を持っている。
 金文の虎の字は多く省略されてはいるが虎の形象を留めている。
 均整の取れた美観を志向し、すでに甲骨文と金文の特徴は失っているが、図形から符号に発展する過程に反映した文字になっている。

 虎は説文では「山獣の君。」とし、これは老虎を百獣の王と見立てている。食肉の猛獣として、林中の覇の称号と一致する。上古時代は東北と河南では皆常にみられる動物である。したがって成語を含め多くの言葉が虎を含んでいる。「虎口余生,虎视眈眈,狐假虎威,不入虎穴、焉得虎子,虎毒不食子」など等




漢字「虎」の漢字源の解釈
 象形:虎の全形を描いたもの


漢字「虎」の字統の解釈
 象形文字: 卜文は虎文をつけた象形字に作る。
 説文に『山獣の君なり』とあり虎足は人の足に象るとするが、その脚尾の形に過ぎない。
 金文の図象に虎形を用いるものもあるのは古くトラの飼養に関与した部族がいたのであろう。


まとめ
 会意文字であるようだが、甲骨文字にせよ、金文にせよ、まるで象形文字であるかのように生き生きとした人々の姿が描写されている。文字の形に簡略化し、無駄を省いたデッサンとなっており、実に素晴らしい記号化、抽象化がなされていると思う。



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

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