気ままな散歩

2021年12月28日火曜日

漢字「夫」の成立ち:「大」の上に「━」は何を意味する?成人した男性盛装した姿を示す


漢字「夫」の由来:字の構成の上から言っても「妻」と対比をなす
 「大」の上に「━」は何を意味する? 「大」は人の正面形、その頭に横線「一」を付けた形。この横線「一」こそ盛装のシンボルである髪飾りである。
 成人男性の頭の上に髪飾りを付けた形。そしてこの構造は妻にもいえる
 もともと成人した立派な男性を示す漢字であった。これに対し「妻」は頭上に三本の簪を加え、これを手で挿している女の姿をいう。夫妻という字は婚儀に際し夫妻の盛装した姿をいう。
 しかし「夫」に「人」が付けばキュリー夫人のように専ら女性を示す。これも最近のジェンダーの議論でいえばNGなのでは。(男についた人という意味で、従属的な漢字ということにならないのか?
 もっともこんなことをいい始めたら埒が明かないかもしれない


漢字「夫」の楷書で、常用漢字です。
 古代は盛装し、髪に髪飾りを付けた成人男子を表していたが、時代が下るにつれ高官や貴人の妻を指すようになり、現代では社会的評価のある結婚した女性を示すようになった。
 しかしそれでも、丈夫のように男性の名残りはまだ受け継がれている。
夫・楷書


  
夫・甲骨文字
夫の字は一と大から成る。大は成年男子を表し、一は髪を束ねるために用いられる簪を表している。
夫・金文
甲骨文字を継承している
夫・小篆
周代には諸侯の正妻
漢代には列候の妻に贈る封号
唐代以降高官や貴人の妻を指すようになった


「夫」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   フ
  • 訓読み   それ、これ、か、おっと

意味
     
  • 「おっと(結婚して妻のいる男)」(例:夫妻)
  •  
  • 丈夫 1人前の男(親からの助けを受けず生活を送れる男)
    最近では親からの支援を人前で堂々と披ける人間がいるが、あれは一人前でない
  •  
  • 夫役 ・・・公共(国)の仕事を割り当てられた男または公共(国)の仕事の割り当て 

同じ部首を持つ漢字     大、天
漢字「夫」を持つ熟語    夫人、農夫、人夫




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
  夫の字は一と大から成る。大は成年男子を表し、一は髪を束ねるために用いられる簪を表している。古代の礼俗によると男子は20歳になると髪に笄を加えるようになり、成年男子であることを示す(女性は15歳で成人とみなされた)

甲骨文字と金文では「夫」の字は髪を束ね、笄を挿した人の形である。このため「夫」の本義は成年男子のことである。男子の成年は結婚もでき、妻も娶ることができる。だから夫は拡張されて丈夫を指す。即ち女子の配偶の妻に相対し、「丈夫、夫君」など

 


漢字「夫」の字統の解釈
  大は人の正面形で、その頭に加えている一は簪飾り、男子の正装の姿である。妻も髪飾りを付けた形。夫妻とは婚礼の時の晴れ姿を写した字である。
 列国期には、「太夫」の称号が用いられ、社会的に重要なものとされている。おそらく荘園的な経営地の管理者の地位にあったものであろう。
 夫人・夫子という語は「夫(かの人)」という婉曲的な呼称。


まとめ
 会意文字であるようだが、甲骨文字にせよ、金文にせよ、まるで象形文字であるかのように生き生きとした人々の姿が描写されている。文字の形に簡略化し、無駄を省いたデッサンとなっており、実に素晴らしい記号化、抽象化がなされていると思う。



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2021年12月23日木曜日

漢字・絶の由来と起源は:糸と色から成る。この糸は何を示し、この色は何を示すか 今驚くべき人間の業欲が明らかになる


漢字・絶の由来と起源は:構成要素の一つ「色」が色気の「色」であることに驚いた。人間から色を取り除くことはできないのだと強く感じた
 漢字の世界でも、容色の「色」が色気という意味でつかわれるのは時代が下ってからのことと思っていた、ところが、漢代ではすでに用いられている。恐るべし「人間の業」

漢字「絶」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「糸」で、右側は「色」で、語義は、元々人と節に従う意味であった。人の後ろにまた人がおり、抱く形で相交わることを示す。色は容色を表すの意味で、今使われる彩色のことは、古くは采といった。糸と色の会意で、色を絶つと解釈してもあながち間違ってはいないように思うが。
 
 ここで、断ち切る対象は、臍の緒というごく身近なものから、糸や、物事の連関というように一般的なもの、抽象的なものに変化している。この過程は社会発展の歴史であるといえないだろうか
絶・楷書


  
絶・甲骨文字
二つの連なった糸を途中刀で断ち切る様子を表す
絶・金文
一つの刀で二つの臍の緒の中間を切断した様子である。臍の緒の形はさらに図象化している。
絶・小篆
左半分は「糸」の字で右半分の上部は刀である。糸、刀で形符に用いられている。下部は「卩」


    


「絶」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ゼツ
  • 訓読み   たえる

意味 
  • 「たつ」 ・・ 「断ち切る」、「中断する」(例:中絶)、「殺す」
  •  
  • 「かけ離れる」  ・・「かけ離れている」(例:絶倫)  「優れている」、 「勝る」(例:卓絶)
  •  
  • 「険しい」・・「切り立っている」(例:絶壁) 

同じ部首を持つ漢字     「絶」は脆・最などは同系という
漢字「絶」を持つ熟語    絶交、絶対、絶倫、絶食




引用:「汉字密码」(P544、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 甲骨文の絶の字は、二つの連結したものが臍の緒で結ばれていることを示している。二つの臍の緒で結ばれたものの中間は横線が引かれている。これは臍の緒の両端を切断したことを示している。血縁が続けることを中止したことを示している。

 「絶」の本義は、子孫を絶つことである。血縁の縁族を中断することを示している。拡張して、一般の意味の「断絶、隔絶、終止」などの意味である。外交関係を断絶し、いわば断交であり、図書を以後出版しないことを絶版という。子孫を断ち切ることを殺絶という。すべて断絶と終わりをいう。

 



漢字「引」の漢字源の解釈
 会意文字:「糸+刀+卩」で刀で糸や人を短い節に切ることを示す。ふっつりと横に切ること。右側に部分はもと色ではなく刀印を含む。また卩は人の姿と解してもいい。

 字統の解釈とは異なる


漢字「絶」の字統の解釈
 形声、 声符は色、「色」にゼイの声がある。説文に「断糸なり。糸に従い、刀に従い、卩に従う」とあり、、会意とするが、色声とみてもよい。初文は糸を断卩した形である。


まとめ
 漢字「絶」の構成要素である「色」の解釈で、全体の意味の解釈が大きく異なる。「色」が容色という意味を表すことが、このように昔からあったとは驚きだ。人間の業である、容色の色を太古の人々も感じていたとは・・。



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2021年12月22日水曜日

漢字「寅」の成り立ちと由来は如何に:そして来年は最強の金運「五黄の寅」に当たる


漢字「寅」は、現代では十二支や名前しか使われない。干支は干支でも最強の運勢「五黄の寅」を自分のものにせよ!!という説あり
「寅」という漢字は。現代では専ら十二支と名前にのみつかわれている。

 日本人に最もなじみが深いのは、言わずと知れた、`フウテンの寅さん」こと寅次郎である。この響きは、平成になった今も「昭和のノスタルジック」な郷愁をもって私らたちの頭の中に生きている。

 甲骨文字から見る原字からは、矢をまっすぐに伸ばす(直す)という意味が見て取れる。しかし、今やそのような原義は失われて、名前と十二支だけに用いられているのはなぜだろう。
 英語で、寅のことをTigerというが、その語源は、ペルシア語のthigra、ギリシア語でtigrisから英語・ドイツ語のtigerへと変化したとのこと。

   来年、令和四年は九星気学において、最強の運勢とされる五黄土星と十二支の中で最も金運が強いとされる「寅年」が重なる36年に一度の貴重な年だそうです。『五黄の寅』と呼ばれ、とりわけ強い運気を持つとされる年だそうですです。
 さらに干支では壬寅と表記し、壬(みずのえ)は五行説で水の流れるが如く金回りがよくなる年とされています。
 しかも、今年の漢字は『金』でした。これぞ最強の舞台設定です

 当たらぬの八卦、当たるも八卦、信じるか信じないかはあなた次第。しかし、信じて待つのではなく、【自分も豊かになるのだ】という前向きの気持ちで事に当たれば、道は開ける。これが運勢学で最も肝要なこと。
漢字「寅」の楷書で、常用漢字です。
 矢と両手に従う。 両手を持って 矢柄を治す形である。
 矢が曲がりなくまっすぐになるということから、物事が滞りなく進むという意味に拡張され、「演」という漢字ができたと伝えられる。
寅・楷書


  
寅・甲骨文字
別の一款からは、もう少し矢の曲直を治すことが明示されたように見えるものもある
寅・金文
甲骨文を基本的に引き継いでいる
寅・小篆
唐漢氏は寅の本義は、胎盤が引き落とす導引を示すとするが、どこからそのような解釈が生まれるのかよく分からない


    


「寅」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   イン
  • 訓読み   とら

意味
  • 十二支の第3番目の年
  •  
  • 名前・・・寅吉、寅雄、寅次
  •  

漢字「寅」を構成要素に持つ漢字    演、
漢字「寅」を持つ熟語    寅歳


引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 寅が十二支に占める位置は第3位である。これも会意文字である。
 甲骨文字の寅の字は繁簡両方の型式を持っている。その一は上部の矢の形に同じ符号である。これは臍の緒が繋がっている方向を示している。下部の符号「文(父)」は即ち母親の産門を示したものだ。そして中間の口は産門の内外を示したものである。三つの形の会意で、胎児が出産後、胎盤からまだ出ずに,臍帯がつながった状態を示している。

 その二は上部の三角は胎盤で、中間の左右両辺に手があり、そろそろと注意深く胎盤から引き下ろしている様を示している。したがって、寅の本義は、胎盤が引き落とす導引を示す。

 唐漢氏はこのように「寅」の字を十二支に由来するとして、一貫して縷々説明をするが、字形とその説明はどうも結びつかない。




漢字「寅」の漢字源の解釈
 原字は 矢+両手で矢をまっすぐ伸ばすを示す。寅はそれに宀を添えたもので家の中で体を伸ばし 居住まいを正すこと。

漢字「寅」の字統の解釈
 矢と両手に従う。 両手を持って 曲直を治す形である 篆書の字形は、その初形を失っており、説文、古文の字形も甚だしく形が変形しているが、卜文の字型にはその初意がなお 残されている。
 字統によると、十二支にこの字が用いられているのは仮借であるという。(発声が似ているため、別の漢字から持ってきて、青の漢字に当てた)


まとめ
 「寅」は今では人々の名前と十二支にしか使われない。使われなくなった理由は、使われる場面がなくなったということだろう。多くの字にも栄枯盛衰があるだろう。このブログはその人間の生活史を跡付けることも指名があると考えるので、追々考えていくことにしよう。

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2021年12月17日金曜日

漢字 金:昔から人々をとらえて離せないもの「金」それは羨望の果てに欲望がある


漢字「金」:今年の漢字に選ばれたには理由がある
 今年の漢字は「金」に決まった。 2000年、12年、16年に続き4回目。
 日本漢字能力検定協会は、応募者が「金」を選んだ理由の概要として、東京五輪で日本人選手が多数の「金」メダルを取ったことや、大谷翔平選手が大リーグでMVPを獲得、藤井聡太さんの最年少四冠達成など各界で「金」字塔を打ち立てたことなどを列挙。さらに給付「金」や新紙幣、新硬貨などお「金」にまつわる話も話題に上ったことを挙げている。
過去3回の「金」が選ばれた理由は、以下の通り

  1. 2000年・・・理解できない公的資金の使途、相次ぐ金融機関の破綻や再編成、品質管理を怠りその事実を隠してまで販売(金優先)を続けた大企業に憂いを感じたことなどから、“金に明け、金に暮れた年”“悲喜こもごもの一年”“嬉しい金と悲しい金”などという表現が多く見受けられました。

  2. 2012年・・・ 金環日食などの天体ショーが見られた、数々の金字塔が打ち立てられた。(東京スカイツリー、ロンドンオリンピックで史上最多のメダルなど等、政治で金の問題が表面化

  3. 2016年・・・リオオリンピックでの金メダルラッシュ、東京都知事選挙での選挙資金問題、イチロー選手の金字塔、スポーツ界に新たな金字塔、マイナス金利初導入、シンガーソングライターの金色衣装などにも注目が集まった。

  4.  こうしてみると世間の関心事は、実際の金そのものではなく、オリンピックでアスリートたちが勝ち取った栄冠の結果としての金メダルに集まり、片や自分たちの生活とはかけ離れた世界の金の流れに関心が集まるようである。
     漢字「金」とは、それを「キン」と呼ぼうが、「カネ」と呼ぼうが、そここから頭に浮かぶことは、自分の生活に関係のない物事を目に浮かべ、あこがれと蔑視を同時に感じるようである。

 


この記事は以前にアップしたものをリバイスしたものです。

漢字「金」の楷書で、常用漢字です。
 上部は「今」で、語義は、貴金属の金、貨幣の「かね」を表します。

 「金」という文字はやはり不思議な力を持つようで、片や多くの人々のあこがれであるし、方は底知れぬ力で、人々を支配するものです。

 しかしそういった力は「金」に最初からあったわけではなく、資本主義の世の中で、金本位体制が長く続き、金が資本として、世界を君臨してきたからでしょう。

 そして漸く資本主義の終焉が叫ばれてきてはいますが、さて「新しい資本主義」が岸田内閣のいうようにやすやす実現できる代物ではないことは、岸田首相やその他世の中のほとんどの人にはわかっている話ではないでしょうか。
金・楷書






  
金・甲骨文字
上部は銅液の流出を表し、下部は「火」を表し、全体として溶錬を示す
金・金文
下部は一つの書き方では土から出来ている。即ち土(鉱石のことを示しているが)の中から冶煉で出来たことを示している。
金・小篆
金文を受け継ぎ、「今」と「土」と二つの点から出来た会意文字


    
    


「金」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   キン・コン
  • 訓読み   かね・こがね

意味
     
  • 材質
  •  
  • 貨幣を表す
  •  
  • 反射光を持つ黄色 

同じ部首を持つ漢字     銅、鉄、
漢字「金」を持つ熟語    金色、金環、金字




引用:「汉字密码」(P774、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 金は古代にあっては銅のことを称していた。その後金属類の総称となり、最後にはやっと専ら黄金の名前となった。

 甲骨文字の「金」の字は上下部の繋がった構造となっている。下辺は「火」であり、火で熔煉を表した。「金」の字の本義は銅であり、青銅の銘文の中で「吉金、赤金、美金」などから分かる。この中の「金」は全て銅を指している。

 






漢字「金」の漢字源の解釈
 会意兼形声。今は「抑えた蓋+一」から成る会意文字で、何かを含んで抑えた形を表す。「金」は「点々のしるし+土+音符今」で土の中に点々と閉じこもって含まれた砂金を表す。


漢字「金」の字統の解釈
 象形文字:銅塊等鋳込んだ形。説文に「五色の金なり」とし、金の土中にある形に今声を加えた形とするが、字は今声に従うものではない。金文の字形は全形の左右に楕円形の小塊二を添えている。


まとめ
 近頃の金の高騰を受け、メルカリには金塊が多く出品されているそうだが。その殆どのものは「銅」の合金である「黄銅」だそうで、悪徳業者が世にはびこる世の中だ。十分注意あれ。



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2021年10月11日月曜日

漢字・好が生成された時代は社会が母系制にあった時代? 男社会からは「好」=好き・美くしいなどという発想は出て来ないのでは


漢字・好の成り立ちと由来:「女+子」から成り立つことに異論はない。しかしその漢字の生成過程は時代背景が母斑のように色濃く残されている!
婦好墓
河南省・安陽の殷墟跡に建つ
婦好像
 社会が母系制であったことの名残りか。母は子供を育て、母をアイデンティティーとして成り立っていた、社会が成立していた。近年、殷墟で「婦好墓」が発掘され、多数の遺品が出土している。殷は「子姓」の国とされ、好はその子姓を示す字と考えられている。殷自体は既に家父長制に移行して長い時間がたっていたであろう、この婦好墓は移り行く変遷の名残りかも知れない。

 この婦好遠い鵜女性は伝承によると、ジャンヌダルクのような女性で、多くの兵士を従え、遠征に出かけていたという」。


漢字「好」の楷書で、常用漢字です。
 右側は「卩」で語義は、跪くひとを表すということです。
好・楷書


  
好・甲骨文字
「女+子」
好・金文
女の字は変化し、手を前で合わせ、裾を抑えた様子をしめす
好・小篆
文字として形が整えられている。


    


「好」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   コウ
  • 訓読み   この(み)、す(き)

意味
     
  • よい(感じがいい、立派な
  •  
  • 好き・すく  ①人や物事に心が引きつけられる」、②魅力を感じる
  •  
  • 好む

漢字「好」を持つ熟語    美好、好色




引用:「汉字密码」(P553、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「好」、これは会意文字です。 甲骨と金文のスクリプトは、「女性と子」という2つの絵文字で構成されています。 ここで「女性」とは女性、「子」とは子供を意味します。
  古代の祖先の目には、子供を持つことができた女性は一族の人口を繁栄させ、母性の血統を代々伝えましたが、「優秀で美しい」女性でした。

 たとえば、甲骨文字の「婦好」という名前には、多産の意味が含まれており、特に優れた子供を出産した母親を指します。

 王権の家父長制が確立された後、「好」の意味は転移し美しさを指すことになった。「善」の意味が変わった。 《方言•卷二》は「自ずと西に関し、秦、晋まで、凡そ美しいことは好という」と書いてあります。
 漢楽府の《陌上桑》:"秦氏有好女,自名为罗敷。“その中の「好」は「美」と解釈されます。 好人好事,好事多磨の中の「好」は即ちこれ「美」の意味の拡張で、その中には「善」という意味を含んでいます。善人、善物、善物は「善」を意味し、これは「美」の意味を拡張したものであり、「善」の意味を含み、坏、歹とは対照的です。不识好歹,不知好坏(良いか悪いかわからない、良いか悪いかわからない)など。



漢字「好」の漢字源の解釈
 会意文字:「女+子」、女性が子供を大切にかばってかわいがる様を示す。大事にしてかわいがる意を含む。


漢字「好」の字統の解釈 290ページ
女と子との会意文字: 説文に「美なり」とあり 美好の意とする。卜文に女を母の形に作り、あるいは子を抱く形に作るものがあって 婦人がその子女を愛好することを示す字である。


まとめ
 「好」という字の持つ優しさ、美しさはいかにも女性的発想と考えるが、如何なものだろう



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2021年10月4日月曜日

漢字「裔」の由来:衣+冏から成る。冏は衣立てという説あり。 先祖の衣を衣立てに立てた子孫・末裔を意味す


漢字「裔」の由来:先祖の衣を衣立てに立てた子孫・末裔を意味す


漢字「裔」の楷書で、常用漢字です。
 上部は「衣」で語義は、衣そのものです。

 裔」は血統や血筋を表す言葉でありますが、この漢字そのものは金文の時代に始めて現れたようです。たしかに着物を代々引き継で行くという発想は、生活が世代を越えて安定して営まれる社会でないと生まれないと考えられます。
  1. 社会が世代を超えてなんていしていること。
  2. 物質的にもゆとりのある社会であることである


 右の文字は、金文の「嬴」です。なんと難しい漢字ですが、裔と同じ読みであることから遊び心で列記してみました。因みにこの意味は、余る、集まるという意味だそうです。
    
裔・楷書嬴・金文



 上部は[衣]で、まぎれもなく衣装を表している。古代の着物はどの様に着られて居たのか、漢字からでも推量することができます。この「裔」という漢字は衣立てに立てた着物を表すというが、この「衣」という字をよく眺めてみると、右前に書かれています。太古の昔、左前は夷狄の風俗とされ、蔑まれていたとのことです。それと区別するために右前に着るようになったという説もあります。このように、漢字は昔の人々の生活様式を知る重要な手段でもあるのです。
裔・金文
衣と冏(光、明亮)から成る
裔・小篆
金文が、文字として整えられた。





「裔」漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   エイ
  • もすそ

意味
     
  • 血筋の末。子孫。後裔。
  •  
  • 着物のすそ。もすそ。
  •  
  • 木の枝などの先端。末端。

漢字「裔」の同義語     後胤:数代の後の子。子孫。後裔
漢字「裔」を持つ熟語    末裔、四裔、後裔、苗裔、




引用:「汉字密码」(P698、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
  裔  会意文字である。 金文の裔の字の上部は「衣」で、下部は「同」の字である。両形の会意で おしりを覆う一種のロングドレスを示している。
小篆の「裔」の字は下部は「同」の字と少し離れ、楷書ではこの縁で「冏」で、裔とかく。

 


漢字「裔」の字統(P45)の解釈
 会意文字である。 衣を衣かけの上にかけた形。 下部の経路 説文では 声符とするが、音が合わない 。 また冏は 商、橘 などの字形からも知られるように、その上に物をたてあるいは載せるための台座であって声符とすべきものではない。裔においては それを衣桁に立てる台である。

 筆者にはこの説明が一番まともに見える


まとめ
 会意文字であるようだが、漢字は昔の人々の生活様式を知る重要な手段でもあるのです。



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2021年9月29日水曜日

漢字「親」の起源と由来:古代の漢字・親は、「近しい関係で見ていることができるのが親」であることを今に伝えている。


漢字「親」の起源と由来:身近に接して見ていることができる人を表している
 親の語源については、諸説紛々としている。
  1. 「亲+見」で、木で作った刑具を見る距離が対象とするものとの近しさを表現している
  2. 「亲+見」で。「亲」は木をナイフで切った生木の意で、「見」との会意で、ナイフで身を切るように身近に接して見ていること
  3. 辛を打って選んだ木で位牌を作る意味だが、位牌で拝む対象は親だから
 いずれももっともらしい説明ではある。3番目の説明は、位牌を作るのに木を針で選ぶ、素朴な手法がとられている時代に、親族を祭るいう氏姓制度が発達していたであろうかという疑問は残る。
 いずれにせよ、木をナイフや刀で切るのを見る様を表した漢字というのが、私には最も腑に落ちる解釈である。

約10年ほど前に、「親という漢字の起源と由来」と題して、やはり「親」を取り上げた。しかし改めて読み直してみて、この記事がいささか一面的であり過ぎるように感じ、改めてページを書き起こした。これで過去の一面性は少しは改善されたかも知れぬが、筆者の気休めに過ぎぬかも知れない。

 近年、親の子供殺し、子供の親殺しという事件が後を絶たない。「親」という概念、或いは位置付けが揺れ動いているように思う。これは人間の経済活動が活発になり、従来の社会の関係性が崩れつつあることを示している。

  親という漢字の生まれと成り立ちを見ると、近代の社会発展にもかかわらず、結局は「近しい関係で見ていることができるのが親」ということに帰結することになる。

漢字「親」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「亲」、「右側は「見る」で語義は、辛を打って選んだ木を見て神位とするの意である。
親・楷書


  
親・甲骨文字
建屋あるいは廟の中で木に針を打っている様を表す

単純に建屋の中で木に細工を加えている作業を表しているのかも知れない
親・金文
廟の外に出て、辛を打った木を見て観察している様

木に細工を加えている作業を表しているであれば、屋内である必要ななく、余計な事物は排除されたのではないか
親・小篆
金文を承継しているが、記号としてより鮮明に意味が伝わるようにしたもの

文字として、抽象化し、洗練された表現方法となった


    


「親」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   シン
  • 訓読み   おや、ちか(しい)、した(しい)

意味
     
  • おや(子を新しく作り出す行為を行い、子を作り出した男・女)   例 親子
  •  
  • したしい  
      互いに打ちとけて仲が良い       例:親友
      近い  「血筋(血のつながり)がある  例:親戚
  •  
  • したしむ   動詞 

同じ部首を持つ漢字     新、薪
漢字「〇」を持つ熟語    親密、親戚、親族、親指、親類、親権




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 辛は刑具で、木で作った刑具を架せられた人を近く見ることとしている。近くに張り付いていて、中途半端な距離ではなく、極めて近い距離にあることを示している。

 



漢字「親」の漢字源の解釈P1438
 会意兼形声:「亲+見」で。「亲」は木をナイフで切った生木の意で、「見」との会意で、ナイフで身を切るように身近に接して見ていること


漢字「親」の字統の解釈
 亲は辛を打って選んだ木でこれを切るのは新(亲+斤)これで神位を作って祭るものは親である。
 説文に「至る也」とあり。また神位を拝するを親といい 親の廟中でその儀礼をおこなう意である。


まとめ
 漢字「親」もまた、古代の生活の発展が漢字の中に刻み込まれている。この解釈が正しいのかどうかはわからない。しかし、漢字は社会の発展過程を如実に再現しているように見える。今後のさらなる研究に期待したい。

 結局、近代の社会発展にもかかわらず、結局は「近しい関係で見ていることができるのが親」ということに帰結することになるというのが、古代の文字から得た私の現在の結論だ。



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2021年9月22日水曜日

漢字「寛」の成り立ち:廟の中で巫女が緩歌漫舞する様を表す。緩やか、寛容の意味が生まれた。今こそ求められる寛容の精神


漢字「寛」の成り立ち:廟中の巫女が緩歌漫舞して祈る様をいう。このことから、物理的な広さではなく人の気象・態度についていう語
 近年特に感じるのは、人々の寛容さがなくなって来ているのではないかということである。
 それは特にネットの上で顕著に現れている気がする。ネットに現れた片言隻語に対し、すぐに攻撃する、相手を叩き潰すということが日常茶飯事である。それほど重要なことでもない、いわば物事の枝葉末節に部分においてすらその非を全く認めない議論が横行している。そこまで言わなくてもと思うのだが、どうにも規制が効かないようだ。なぜ人はこうも完全なものを求めるのだろうか。攻撃する本人は人にそれほど完全なものを求めるほどに完全なのであろうか。社会はまだそれほど成熟していないということなのか。今から2500年ほど前の中国で諸子百家が活躍していた時代と人間は何ら成長していない気がしてならない。

 寛の使い方は、寛容、寛大などに見られるように、物理的な空間の広さではなく、人間の心象、態度についていう言葉ばかりである。物理的な空間の広さを表す「広」とは、使い方に於いてはっきりと区別ができる。


漢字「寛」の楷書で、常用漢字です。
説文では、「寛」は家が寛大なり」すなわち、部屋の広い壁、面積が大きいことといっています。このことから一般的な意味の上で広々として広大とを示し、狭いとの対比を示しています。拡張して、心が広い、ゆったりとしているという意味を持つようになりました。
 この解釈は説文によるところであるが、白川氏は全く逆に人の気象・態度についていう意味がこの語の基本であると主張している。
寛・楷書


  
寛・金文
廟中の巫女が緩歌漫舞して祈る様をいう。
寛・小篆
金文を引き継いでいる


    


「寛」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   カン
  • 訓読み   ひろ(い)

意味
     
  • ひろい  家などが広い
          心がゆったりしてゆとりがある
          他人の意見をよく受け入れる気持ちを持っている」 例:寛大
          ゆるやか(例:寛刑)
          のびやか(心が穏やかで生き生きしている)
       
  •  
  • 動詞  ゆるめる
  •  
  • 動詞  ゆったりする、くつろぐ

同じ部首を持つ漢字     寛、莧
漢字「寛」を持つ熟語    寛大、寛容



引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「寛」は会意文字です 。 古文の漢字は 居室の中の内という意味です 突出した二つの目と眉毛の人間が書かれ、これでもって人の孤独に返って部屋が広く大きいことを示し、強調しています。
  小篆の寛の字は金文を受け継ぎ、ただ一つ眼と眉毛が一個の首の字に代わっていますが、下辺の人の形は儿の字になって、一人の文字の形成文字を形成しています 。

 



漢字「寛」の漢字源の解釈
 中が丸くゆとりがあって、自由に動ける大きい家


漢字「寛」の字統の解釈(P127)
 会意文字。旧字は寛に作り、宀と莧とに従う。宀は廟、莧は眉に呪飾を加えた巫女。寛は説文に「屋、寛大なり」とするが、廟中の巫女が緩歌漫舞して祈る様をいう。
 その気象は寛緩、ゆえに寛大、寛容などの義が生まれる。家の大きさをいう字ではなく、すべて人の気象・態度についていう語である。

まとめ
 人々は古代は寛容で、寛大であった。いつから狭窄で攻撃的になったのか。古代は為政者は他を攻撃し自らの勢力を維持していたようだが、庶民は宗教が違っても、同じ社会に生きている限り、実に寛容に相互に認め合って生きていたことが文献の中でも伺える。人間は失った寛容を取り戻すことなしに、決して明るい未来は築き得ない。



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2021年9月18日土曜日

「いなご・蝗」は大群となりて世界の人類を滅ぼすか、果てまた人類を救うたんぱく質の供給源となりうるか


漢字「蝗」の成り立ち:「虫+皇」から成る。蝗の大群はまるで皇帝のように傍若無人に振舞い人々を苦しめてきた
 つい2、3か月前イナゴの大群がアフリカ北部からトルコ、シリアのあたりに飛来し農作物を食い荒らしているというニュースが駆け巡りました。

 近年蝗の一種である、サバクトビバッタがアフリカに大発生し、それがアフリカ、中東、西南アジアに飛来し、20か国以上にも及ぶ国々の農業、食料に甚大な被害を与えていると報じられています。


  2021年5月11日付JICAのホームページには、その被害の状況を下記のように報告しています。
 さまざまな農作物を食い荒らすサバクトビバッタ。アフリカから中東、南西アジアまで広く分布しており、大発生すると大群が風に乗って一日に100km以上飛翔するため、その被害はこれまで約60カ国、地球陸地面積の約20%に及ぶといわれています。 なかでもパキスタンは被害が大きく、2019年末に大発生したサバクトビバッタの被害面積は約1800万ha(ヘクタール)と世界最大かつ過去最悪でした(世界銀行:2020年6月資料)。さらに2020年からは新型コロナウイルスの影響も重なり、パキスタンの主要産業である農業分野は甚大な被害を受けています。

パキスタンで、サバクトビバッタへの対応に取り組んできた国際連合食糧農業機関(FAO)はJICAと連携し、バッタ被害が深刻な小規模農家の生計向上や、バッタ防除を行う政府職員の能力強化など、農家をサポートする体制づくりを進めています。
  また蝗は豊富にたんぱく質を含むことから、飼料として利用する方法も開発が進んでいます。


 日本では昔から蝗の佃煮や、甘露煮、てんぷらなど蝗を食べていた地域もあります。今後気候変動や地球温暖化などで現在の食材では賄いきれなくなった時には、これや昆虫類も人類を救う重要な食糧源になることが期待されています。

漢字「蝗」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「虫」で、右は「皇」という字で、四方に広がるという意味を持つ。
 この昆虫は、稲やありとあらゆる植物を食い荒らす害虫として人々に恐れられてきた。「蝗」は古代は、「水、火、兵、蝗」の四大災害の一つとして、古代の文献にもしばしば登場している。
蝗・楷書


  
蝗・甲骨文字
昆虫そのまんま、触覚、頭部本当に昆虫にしか見えない
蝗・金文
甲骨文から更に進化した
蝗・小篆
ここまでくると象形文字の率直さは失われて、文字としての体裁と買いやすさ、表現の統一性が際立ってくる


    


「蝗」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   コウ
  • 訓読み   いなご

意味
     
  • 蝗 (イナゴ)   イナゴ科イナゴ属のバッタの総称。
  •  
  • ショウリョウバッタ(精霊蝗虫) 日本に分布するバッタの中では最大種で、斜め上に尖った頭部が特徴である。
  •  
  • トノサマバッタ

同じ部首を持つ漢字     凰、隍、蝗、篁
漢字「蝗」を持つ熟語    飛蝗、蝗害




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
  甲骨文と金文の「蝗」の字は象形字で、触覚と翅と足から成っている。蝗の各部分は全て具備している。小篆の蝗の字は虫と皇とからなり、会意兼形声字である。

古文字中「皇」と「王」の字はみな大きく強勢な意思を持っていた。イナゴの大軍が移動するとき天を覆い日を遮り、常々広いスペ-スをカバーし、人々は蝗の壮大な勢いに恐れをなし、蝗と名付けました。このほか蝗と同類で形も似た蚱蜢(ショウリョウバッタ)は突然発作のように猛烈に繁殖するという意味の突然変異の意味を持つ。ここで漢字の「蚱」は(急に出てくるという意味を持つ)。

 蝗の突然の発作で、農作物に災害を及ぼし、中国の歴史上でも害は大きい。甲骨文の中にも神に助けを求め、この害を取り除くよう求めたという記録があります。ということは今から3500年前~4000年前にはすでに蝗の被害は人々の生活に重大な影響を及ぼしていたことになります。



漢字「蝗」の漢字源の解釈
 会意兼形声:虫+音符「皇」(四方に広がる)


現代漢語中の漢字「蝗」
 現代漢語中、人の貪り食うさま、丸のみをするさま、きれいさっぱり一掃するようなとき、腐敗した役人が国境を超えるとき、地を三尺も削るとき等が、蝗の越境と例えられます(皮肉を交えて?)


まとめ
 甲骨文字の時代に、蝗の被害の被害の記述があったということは、その時代既にそれなりの農業が発達していたことの裏返しでもあります。
 しかし今日の蝗の被害は飛躍的に増大していることでしょう。また近年その被害が甚大となっている背景には、地球温暖化があるといわれております。温暖化の結果砂漠化が進み、蝗が飢餓と飽食のサイクルを繰り返すことで、爆発的な繁殖を生み出すことになっています。私たちは地球温暖化を防止すると同時に蝗の食材化と開発も同時に進めなければなりません。

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