2017年11月28日火曜日

干支の「いぬ」の漢字「戌」の成立ちを甲骨文字に探る


漢字「戌」の起源と由来
 干支の「戌」は「犬」ではありません。
 中国では年を表すのに10を一サイクルとする十干(甲、乙、丙・・・)、12を一サイクルとする十二支(子、丑、寅・・)の二つの指標を使って表してきた。これで比較的になじみが多いのが、丙午だろう。日本ではこれを避けるために、出生率がぐんと下がるほどの影響力を持っている。
 来年の干支は「戌」である。この漢字は動物の「犬」とは起源も由来も違い、中国人独特の思考方法により生み出されてきた漢字である。


引用:「汉字密码」(P878、唐汉著,学林出版社)

 「戌」の構造形は元々一種の丸い刃の広い短い柄の戦闘用の斧から来ている。
 古代はこれを「鉞」と称していた。「戌」は甲骨文字では象形文字である。突き出した半円形の刃の部分は典型的な「鉞」の特徴を持っている。
 金文の「戌」の字はその他の兵器の文字と同様な変化をして、右辺の「木偏+必」(木の柄)の形は矛・戈 という旁になった。左辺の半円の刃の部は線条化の変形過程の後、トとなった。金文から小篆以来、楷書は小篆を受け継いでいる。
 戌の字は兵器の象形文字である。
 しかし戌は十二支であり、兵器からの直接の由来ではなく、「戌」という名の神祇から来ている。
 上古先民はこの「戌」という名の神祇は嬰児のある神秘的な関係を持っているとする。それゆえ戌という神祇に向かって子供の成長を加護の献祭が必要になる。このため戌は十二支の第11番目に借用されている。



 一方動物の「いぬ」の漢字は「犬」で、甲骨文字でははっきりとした象形文字で犬の形が具象化されており、誰が見ても犬にしか見えないもので、干支の「戌」の漢字とは似ても似つかないまったく異なる由来であることが良く分かる。


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漢字「狗」の本来の意味は何?


漢字「狗」の起源と由来
なぜ漢字で[狗]を「狗」と書き表したか?
 漢字では「犬」を「狗」とも書き表す。このことは人々が通常湾曲した形状のものを「鈎」と称したことによるものだ。湾曲したものをつなぎ合わせて一緒に「句(gou)搭」と呼んだ。雄犬と母犬が交配をする時、大変長い時間「離れがたく一緒」にいる。先住民は交配している犬を見て、自主的に「句住」と呼んだものだろう。こうして長い時間を経て、「句」の発音は犬の通称となった。発音に基づき、犬と句の音と犬の字を同時に使用して、人々は「狗」の字を作った。


引用:「汉字密码」(P27、唐汉著,学林出版社)

漢字「狗」の構造
 漢字の中で「犬」の字は部首である。偏と旁に用いる時、犬は「狐、狼」の偏のように書かれる。「犬」の旁は通常犬と同類の哺乳動物の類を表す音を表す旁を用いて、狗と表記する。

 《诗•小雅•巧言》のなかに「子供のウサギに心が躍る、犬に会ってこれを捕まえる」の記述がある。これから分かることは相当早い時期から、犬は既に人々の狩りの助けをし、人々のために犬馬の労に献身していたようだ。


韓信の無念
 西漢の年、漢の高祖が天下を取るのに戦功を立てた大将軍韓信は謀反の嫌疑をかけられ、毒を飲まされ自殺した。彼は辞世の句を残している。「狡兔死,走狗烹。」この意味はずるい兎を捕まえる時は犬は一定重用されるが、一旦ウサギが捕まり、犬が用いられなくなると料理されて食べられるものだ。これは韓信の自嘲の気持ちを表している。我々は、この事から、犬を狗と呼ぶようになったのは相当古いことであり、また中国では、漢の時代から狗は食用にされていたことが分かる。 

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2017年7月10日月曜日

漢字「金」の成立ちを甲骨文字に探る:上部は「今」と下部は熔煉の会意文字である

漢字「金」の起源と由来

金は古代にあっては銅のことを称していた
金は古代にあっては銅のことを称していた。その後金属類の総称となり、最後にはやっと専ら黄金の名前となった。
金は土(鉱石のこと)の中から冶煉で出来たことを示している

引用 「汉字密码」(P774,唐汉,学林出版社)
「金」の字の成り立ちは「今」と「火」
甲骨文字の「金」の字は上下部の繋がった構造となっている。下辺は「火」であり、火で熔煉を表した。上部の記号は古文の「今」の字で、男子の性行為の射精を表す。また銅液の流出を表し、また貴重だということを示している。金文の「金」には二つの書き方があり、一つは甲骨文を受け継ぎ、下部は火から出来ており、また別の書き方では土から出来ている。 金は即ち土(鉱石のことを示しているが)の中から冶煉で出来たことを示している。

「今」と「土」と二つの点から出来た会意文字である。

 旁の二つの小さい点は銅で出来た鍵盤のキー(即ち上古の「呂」)である。

この点に関し、白川氏はこの2つの小塊が元々金(銅塊)を表している。そして「金」という字は銅塊などを鋳込んだ形であると説明をしている。
 小篆はこの関係から、「今」と「土」と二つの点から出来た会意文字で、楷書では「金」と書く。金の字の構造は、本来上古時代の火煉鋼から来るものだ。もとより「金」の字の本義は「銅」であり、青銅の銘文の中で「吉金、赤金、美金」などから分かる。この中の「金」は全て銅を指している。

「金」は上古では「銅」を表していた 
 銅は上古の時期は金属の中で使用量が最も多く、その様とも広範囲にわたっていた。だから「金」は一般的に金属を示すのに用いられた。「悪金」の如く、一部鉄を指し、「錫金」は錫を指す。
 むろん鋼や黄金まで古代社会ではかつて貨幣に用いられた。だから「金」は貨幣のこととしても用いられた。現金、基金、奨金などである。黄金は金属中最も貴重なものである。
「金」は造字構造要件の中で「類符」(類を表す記号)となった。

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2017年7月5日水曜日

漢字「杉」の成立ちを「甲骨文字」に探る:杉は木の中でも数が多い


漢字「杉」の起源と由来
引用:「汉字密码」(P162、唐汉著,学林出版社)

杉の木はすなわち以前からいつも電柱に用いる樹木である。中国の南では杉の木の樹齢が400年を超えるものが多くある。まっすぐ立って天に向かう形は、世間に満ちている。雨量が十分で、温暖な気候、酸性の土壌は杉の木の生育を早くさせる。内外で有名な中国の「福州杉」はこの代表というべきものだ。 杉という字は木に を組み合わせて、" "の構造をしている。当然これは「三」の変形である。中国にあっては数詞の「三」と「九」は同様で、どれも数の多いという意味をあらわしている。このため影の「影」や彩色の「彩」その偏旁は皆「三 」で、重なりや横に並んだ多いという意味を示している。杉の木は単独で成長するものではなく、一塊の林をなす。杉の木の樹冠は小さいが樹茎は大きく高く、一株一株は緊密に寄り添い一種独特の生態系をなしている。 三五の塊をなし、数片で林をなす。そこで漢字中の「杉」の便利なところ。 《杉槽漆斜》の言葉は蘇軾の中の《宿海会寺》という詩に出てくるが、「高堂延客夜不扁 , 杉槽漆解江湖倾。」ここでの「杉槽」は杉の木で作った大きな浴槽のことを言う。



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2017年7月3日月曜日

漢字「方」の成立ち・由来を「甲骨文字」に探る:人が向いた方向を表す


漢字「方」の起源と由来
引用:「汉字密码」(P514、唐汉著,学林出版社)

「方」は会意文字である。甲骨文字と金文の「方」の構造はよく似ている。中間の記号は生殖器である。突出した男子の側面から見た形象で中部の横置した一は意を通じた形象である。両形の会意から男子の生殖器が向いている方向である。即ち方向の意味である。

 商代では甲骨文字辞に記載された古国は、一般に土方、井方、周方の如く一人称を○方と現す。一人称だから自分のことを表現するのに○○方といっていたのだろうか。今風に言うと「私こと○○」という感じなのか。

 小篆から楷書に至る方の字の中間は「男の人」の形で、逐次変化して、象形の意味を失ってしまっている。
 要は「方」は方角という意味に使われたのと、自分を表す一人称的に用いられたのだということ。

 因みに白川博士の解釈は「横に渡した木に、死体をかけたこと」を表す。としている。古代においては死を忌み嫌う風習からきたものという。


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2017年6月7日水曜日

漢字 地の起源・由来:万物の生成の源を表す「土」と古代の生殖崇拝の観念を表す「也」の会意文字


漢字 地の起源と由来:万物の生成の源を表す「土」と古代の生殖崇拝の観念を表す「也」の会意文字

 ここでも唐漢氏の説には、少し「納得しかねる部分」があるが、部分的にあれこれというより、全体としてどう評価するかということに力点を置いているので、そのまま紹介する。古代では、万物は火、水、土、気の元素?から成ると考えられていた時代があった。地とはすべてを育むことを意味する也と土から構成されるのは、ある意味最もな帰結かもしれない。

唐漢氏の解釈
 「 地 」は説文では、「エネルギーの始め、軽、清、陽は天をなし、重、濁り、陰は地になった。万物を陳列するところ。「地」は土と也の音声からなる。許慎の見るところによれば、天地の形成ないし、混沌とした状態から別れ、軽い清いものが天に昇り、重い汚いものは淀んで地になった。この種の認識と宇宙星雲の実際の形成過程は十分近い。許慎が見てきたように、地はまだ万物の陳列場であった。いうに及ばず、土は万物を生み、地球上に持つ物体全て土地の上のものだ。
 「地」は「土」と「也」からなる。「也」は古文字のなかでは、女性性器の象形である。始まりは古代の生殖崇拝の観念の表現だ。両形の会意で、よく繁殖し全てを慈しみ増やす土で、「地」は天に相対し、地面を表す。
【「汉字密码」(P305、唐汉著,学林出版社)参照】


結論
 漢字 地の起源と由来:万物の生成の源を表す「土」と古代の生殖崇拝の観念を表す「也」の会意文字。
 古代では、万物は火、水、土、気の元素?から成ると考えられていた時代があった。地とはすべてを育むことを意味する也と土から構成されるのは、ある意味最もな帰結かもしれない。


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漢字「岸」の起源:谷あいで橋を架けうる高い場所?


漢字「岸」の起源と由来

「汉字密码」(P309、唐汉著,学林出版社)によれば、
「岸」:谷あいで橋を架けうる高い場所
 「岸」これは会意文字である。古代帝王の印章文字「岸」の字の上部は山の図形で、下辺は「干」の字だ。中間はひっくり返し記号の「がんだれ」の三つの会意文字即ち木の幹が倒された様子で、一本の木の橋頭が対面の山の高いところにある形。小篆と楷書はこの流れを受け継いだ形。 岸の本義は峡谷で、水辺には単独の木の橋を立てうる高地のこと。以降専ら水辺の高地を指す。説文の解釈では岸は水崖(涯)或いは高いものとしている。

白川静博士は、「字統」では、山冠の下の字は、「用例もなく、岸の字をこの音に当てはめるために作ったような字」と評しているのでなんとも分からない。ただ、西晋のころ、「この地名で儀式が行われている。この場所は山川の断崖のようなところで、岸の初文である」としている。
唐漢氏の説明の木の橋云々は、少し分からない。謎は尽きない!


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